2023.03.18

いきなり寒さがぶり返し、しかも雨だ。こうなってくるとわかることがある。僕は暖かくなってくると楽しくなってきてどんどん本を作る。そして寒くなってくると誰も読まないような本を作って何が楽しいのだろう、気が張るばかりで虚しいだけだ、という気分になってくる。僕のZINE は花のようなものらしい。太陽によってもたらされる。

きょうは何もやる気が起きなくて、そんなときでも気持ちが上向くような映画を観ようと寝室のスクリーンにでかでかと映し出した『トップガン マーヴェリック』をヘッドホンで観た。これは確かに映画館に愛される映画だなあと思う。筋書きだけでいうならばなんということのない話だ。それでもシンプルな筋書きを、手堅い撮影や編集でみせるというのがいちばん面白いのだというような、土釜で炊きたての白米のような作品だった。中年たちの中学生みたいな恋愛パートに眠たくなったが、しかしこういう屈託のない恋愛描写、そういえばずいぶん久しぶりなような気がする。自分の生命力にすごくに自信のありそうな人しか出てこず、みんな甘い目つきでにやけ顔を見せつけてくるからすこし怖い。しかしとにかく具体性に欠ける敵と大義がぼんやりと示され、なんだかよくわからないがすごく難しいらしい作戦が提示され、それがどれだけ不可能に近いことであるかを繰り返し練習する姿を見せることで納得させる、そうしていよいよ本番が始まる。練習どおりにやるだけでなく、予期せぬ出来事にも冷静に対応しつつ、自己ベストを更新しなければミッションは成功しない、さあ、どうなる、つまりこれはスポ根だ。全国優勝みたいな目標がまずあって、練習を通じて仲間との人間関係が動き、そして酷薄に時間を区切られた本番の中で勝負が決する。気がつけば僕はG がかかって朦朧とする視界にはらはらし、練習の成果が出るか出ないかを毛布を握り締めながら息を詰めて見守っていた。じつにいい試合だった。

午後は『グラス・オニオン』。かなり好きだった前作の劇場版みたいな作品だった。むしろ『ナイブズ・アウト』のほうは劇場でも人気を博し、今作はNetflix 独占配信なので、じっさいは逆なのだが。とにかく景気がくてケレン味たっぷり、頭から尻尾までずっと楽しい映画だった。意味のないシーンがひとつもないようでいて、いくつものナンセンスがごろっと置きっぱなしなのも気持ちがいい。概念上のコナンの映画に求めているものがぜんぶ詰まっていた。概念上のコナン映画とは、いちいち作画が冴えていて、衣装も豪華でありつつユーモラスで、なぞの嘘技術がしれっと登場しつつ謎解きはしっかりと王道で、そのうえで活劇も盛り沢山、というようなことだ。僕はこういうウィットに富んだ減らず口を叩く探偵がとにかく好きみたい。金持ちたちの鼻持ちならなさがそれぞれにチャーミングで、しかもみんな絵になる。とにかく所作が映画的であるし、静止画もバッチリ決まる。目に嬉しく、ホワイダニットものとしての秀逸さもあいかわらず。なにより主人公がけっきょくのところ誰とも親密な関係を築かないのがいい。人情は滲ませつつ、クライアントワークのドライさを踏み越えない。『トップガン』のべたべたっぷりが、日本の不良もののそれと近似でやや辟易としてしまった僕としては、王道の娯楽作という意味でもこちらのほうが好みだ。これは何作も続いてほしいシリーズであるな、と思う。

きょうは本作りを休むぞと決意していたので、とにかく映画を浴びた。そうするとやはり気分がすっきりするようで、僕は娯楽大作がとっても好きだな、と思う。母とテレビで映画を観ていた子供のころの僕に取って格好いい大人の男とは、トム・ハンクスでありトム・クルーズでありビル・マーレイでありジョニー・デップでありシュワちゃんだった。王子様みたいだったトム・クルーズは爽やかに現場にのさばり続ける大先輩としていまだにタレ目でにやけている。僕がいまスクリーンに観ている人物が、小学生のころからあいかわらずであることの驚きは大きい。ひとりの人生とはあんがい長いものでもあるみたいだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。