2023.10.11

ツイッターで小説の話をしている人が多い気がして、ぼんやりと考えたこと。2000年代に本読むティーンだった者からすると、当時の狭い了見から見る小説というのはほとんどセックスか人死にの話をするものだったし、じっさいそれに近い小説観はいまより強かった気がする。そういうの面白くないと思っていても楽しく読めるので、保坂和志や柴崎友香を知ったとき嬉しかった。僕が面白いと思えない読みものはとにかく出来事を簡単に物語にしてしまうもので、明治の小説の黎明にはフロンティアでありえた性も懊悩もとっくに強固な物語として権威化している状況下で死ぬほど悩みながらセックスに耽ったり犯罪に手を染めたりされても白けるだけだ。妙なディティールの前に立ち尽くしてしまい、スムースな物語としての語りの進行を破綻させかねないほどの過剰さでそこに拘泥するような書きっぷりに、僕はヤッター!とはしゃぐ。しかしこのような態度もまた「ポストモダン」的であるとして時代遅れであるかもしれない。まあそれでいいけど。

タイムラインのなんとなくの雰囲気に触発されて思考が引き摺り出されるというのはなんだか久しぶりな気がする。そもそもぱっと開いて目についたものしか見なくなって久しい。遡る楽しさみたいなものはもうずいぶんやっていないのは、もう楽しくないから遡らないのか、遡らないから楽しくないのか。それでもスクリーンタイムでは一時間を超えてiPhoneにアプリを閉じてもらうこともしばしばあるから、見ていないわけではない。ツリーの末尾にあるリンクを踏んで漫画を読んでいることがほとんどではある。

Notion で実現するツェッテルカステンもどきの整備が楽しい。タスク管理やアウトライナー的なメモはDynalist で、リニアな思考が窮屈な時は紙の手帳や野帳、最終的にノートとして集約するのはNotion という体制に落ち着いてきた。‪日記は一気に書くときはNotion で、断片をツイートやDynalist でつくってあとで合体させることもある。書き下ろしで一万字以上書くときはDynalist で目次から作るほうが簡単だとわかってきた。ある程度構築的な長文をつくるさいに重要なのは、いかに頭をつかわないで書けるような環境を準備してあげられるかで、メモや小さなノートの配置だけであとは少しの潤色で済むというのが理想だ。日記は書くという行為がひとつの行為だけを意味するような書き方であるが、ZINE など本をつくるさいはメモで発散、ノートに配置、並べられた文字群の接続をなめらかに整える、というようにいくつかの別様の書くが連合するイメージだ。『人生がときめき知的生産が爆増し富名声力この世のすべてを手に入れる最強ノート術』みたいな本、これまで何冊か読みつつも大袈裟で胡散臭いなあノートの取り方ってこんなにたくさんの人がわざわざ一冊書くほどのものかよ、などと思っていたのだけれど、じっさいノートの書き方を変えてみると、やばい、俺は人生がときめき知的生産が爆増し富名声力この世のすべてを手に入れるノート術を発見してしまったかもしれない、これはぜひ世のため人のため公表しなくてはというくらい興奮するので一冊書きたくなっちゃう気持ちもわかる。‬思考の外在化のフォームを変更するというのは、そのまま認識の体系を組み替えるようなインパクトがある。ノートが変わればパラダイムが変わるのだ。

リュックの中身の整理も楽しい。持ち歩くノート類を整理したり、いざというときに羽織るカーディガンを外に出したりする。もう普通に着て出かけるので。これもまた外でもやりたくなる行為を、必要な道具を吟味することで整理している。リュックもノートも有限であることが大事で、制限のなかで活性化するものというのはたしかにある。ノートに関しては、デジタルツールはほとんど無限であるのだが、だからこそなんでもできるという感覚よりも、ここまでしかしない、という限定が決め手になってくる。やはり次の本は『リュックとノート──有限からあらゆるものを爆産する整理術』みたいなのがいいだろうか。

冗談はほどほどに、この夏の京極夏彦との再会、そのいちばんの効用は整理整頓の発見であると思う。百鬼夜行シリーズを集中的に読み耽る時期を経て、テレビや公演、シラスでの対談等ほうぼうでの発言を追ってみることまでしたからこそ、ノート術の重要性が腑に落ちる準備が整った。整理整頓とは、なるべく頑張りたくない人のためのミニマルな勤勉さ、無駄な努力をしないで済ませるための環境構築の謂なのだと、ようやく納得している。それが随分うれしいみたいで、もう何日も同じ話しかしていない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。