2024.07.22

奥さんの仕事場が一階で、僕が在宅労働するときは二階。空間を隔てることでお互いずいぶん快適になったし、勤務時間中の剥離の感覚も強まった。退勤すると帰ってきた、という感じがする。一軒家に暮らすのは初めての体験で、とはいえ祖父母の家に泊まることもあったから、知らないわけではない。あっという間に二週間ちかく経ち、だんだんと家に体も馴染んできて驚くのは、寝室にいてもトイレにいても、おおむね好きな感じであることである。不満があるとすればそれは気に入らないというよりも不便であるところや未着手の部分であり、大枠でいえばどこもちょうどよく、すごいことだなと思う。しかしいつまでも細部の不満を放置するわけにもいかず、そろそろちゃんとしたいところ。カーテンの見積もりを見てのけぞる。

WRESTLE UNIVERSE の無料お試しを開始して、二十一日のDDT両国興行を見る。クリスに招かれたデスぺ目当てで、かれらのカリカチュアされた官能のやりとりもたいへんよかったのだが、メインの上野勇希とMAOの試合が非常に盛りだくさんで格好よかった。終盤のドロップキックの打ち合いとか、体力の蕩尽の極みという感じでじつに気前がよい。これはすごいや、とさらに遡り、上野MAOタッグがクリスとザックに挑む興行も見て、これもザックはむしろDDTでこそ咲くんじゃないか?とさえ感じる充実っぷり。配信のカメラや、エンドロールの演出など、気の利いた2.5次元舞台のそれと共通するところも多く、ショーとして慣れ親しんだ感じがある。社内が和気藹々としているのもいい。喧嘩ではなく、いちゃつきとしてのレスリング。薄々わかってはいたのだけれど、DDTは好きなやつだろう。ただ、あまりにも露骨にショーアップすることで意外とノれない部分も多く、興味深かった。新日本プロレスが少年ジャンプで、後ろ暗い二次創作の欲望を喚起するとしたら、DDTは商業BLであり、あけすけに欲望を満足させてくれるからこそ前のめりに誤読していくような意欲はもともと牽制されている。密漁する読みの悦びみたいなものはむしろ少なく、だからこそあまりにあけすけにこういうのがいいんでしょという態度が透けて見えると一気に冷めてしまう危うさもある。プロレスを楽しんでいたらうっかり夜更かしになってしまった。日記を書きそびれる。できればというか、ふつうに必要があり朝型に生活を調整したいのだが、なかなか早寝ができない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。