慣れないベッドで体がこわばっていた。九時前には起床。たまの帰省では朝食が豪華になる。パンが二種と、ルッコラとトマトとチーズのサラダ、オニオングラタンスープ、さらにはインド料理教室で習ったというじゃがいもをスパイスで炒めたのまで出てきて、満腹だった。ほんらいであれば林檎ケーキまであった。これはおやつにとっておく。
きょうは不発弾の処理で東山線が名駅まで繋がっていないとかで、あれこれ混雑が予想されたから昼には出るつもりだった。そのままライブハウスに直行するほかないから、いただいた林檎やクッキー、買った本は段ボールに詰めて送ってもらう。母が目が見えなくなった、と言う。前にもなった。ぎざぎざが右目の視界に入り込んで、鏡を見ると自分の顔の右半分が削れて見えるのだという。しばらくすると頭痛や吐き気もありうるから面倒なのだと薬を服んで寝る。閃輝暗点というらしい。父は、芥川龍之介の『歯車』に出てくる歯車とはそれなのだという。検索して出てきた引用箇所を読み上げる。まだ症例として数えられていなかったであろう時期に、自らの身体の状態を文字列として再現する能力。それはやはり特殊技能だし、端的にまとめられたものをただ手際よく切り貼りするのとは全く異なる技芸なのだなと感心する。心配だけれどことさらに騒ぐのもちがうか、とも思う。名駅まで父に車を出してもらう。きのうのトークの延長にあるような話をする。思想というものが機能していない国とは何か、みたいな話。それは一面では生活水準の向上がもたらしたものなのだろう。命を賭してでも守りたいもの、というものが穏やかな生活であったとして、それであれば道に出てわざわざ銃の前に立つことはない。家で大事な人と過ごしていれば良いではないか。そういう感覚をもてるほどには、大多数が生活に愛着を持っており、それが決定的に毀損されるとは思ってもいない状況で、市民的な他者への想像力はいかにして行為に結びつくのか。今僕はさっぱりわからなくなっている。昨晩の青木さんとのおしゃべりの終盤に出た、排外的でない保守は可能か、みたいな話とも繋がる。生活への愛着と、権力の濫用への異議申し立ては、いかにしてお互いを励ましうるか。
新幹線に乗り込んだ途端に眠ってしまったらしく、いきなり東京だった。豊洲まで出て、十六時前だった。川沿いを歩く。豊洲PIT の物販列に並びながら、Kindleで『ぼっけえ、きょうてえ』を読む。昨年の横浜では柄谷行人『反文学論』を読んでいたのだった。ロンTと武道館のパンフを買って、近所をぶらつく。ローソンでほうじ茶を買って飲みつつ、ベンチで着替え。ジャケットを脱いで、スウェットの上からロンTを重ね着してから、ジャケットをまた着る。奥さんは開場に合わせてくるようだけれど、整理番号は千以上ちがうから会えるのは終演後かしら、と考えながらリュックをロッカーに入れる。外が寒すぎて上着は着たままにする。今夜は満月だ。奥さんが献花に行った日も満月だった。入場すると奥さんが頑張って場所を確保していてくれたので一緒に並ぶことができた。BUCK-TICK のロゴが壁面に投影される。それを見るだけでもうきうきした気分になる。FISH TANKER’S ONLY 。あたらしいアルバム『スブロサ SUBROSA』が出てからまだ半月も経っていない。でももうずっと聴いているからただただ楽しみだった。やっぱり「百万那由多ノ塵SCUM」から始まって、うんうん、こういう演出だよね、と頷いていたら、二曲目「スブロサ SUBROSA」でのパフォーマンスが格好よすぎて大笑いしてしまった。「夢遊猫 SLEEP WALK」の前に今井さんが、にゃおす、と言うところで泣き笑い。既存の曲も思った以上に演奏された。なんなら新譜を聴いていてライブが楽しみだった「Rezisto」、「プシュケー – PSYCHE -」、「ガブリエルのラッパ」はなかったので、アルバムツアーまでお預けらしい。そうだ、これってファンクラブ限定ライブだもんな、と思う。ボーカルを取る星野英彦もかなりいい感じで、奥さんにつられて咲きまくってしまった。とにかくただただ楽しかった。アンコールで「狂気のデッドヒート」のイントロが聞こえてきた時は、ぽかんと口を開けてそのままにっこにこしてしまう。湿っぽくなる瞬間がなくはなかったけれどほとんどなくて、楽しい時間を過ごそう、一緒に遊ぼうというスタンスに満ち満ちていて、それがたいへんよかった。
楽しかったね、いいライブだったね、またすぐに武道館があるの嬉しいね、そんなふうに話しながらららぽーとで韓国料理を食べて、帰宅。とても寒かった。ルドンは問題なくお留守番できていたようで安心。膝の上でごろごろいうのをめいっぱい撫でてやる。この週末はほとんど会えなかったけれど、人間は人間で楽しい時間を過ごせた。もうすでにこの猫のことが大好きだけれど、それだけにかまけないように気をつけないとね。いくつもの並行世界をもっておきたい。
