2024.12.14

朝は猫と遊ぶ。ひとり遊びに没頭したい気分らしく、人間の介入は余計そうだったので、予定を早めてさっさと出かけることに。新幹線。切符がICカードに紐づき、さらっと自由席で来たやつに飛び乗るようにしてから億劫さがなくなった。他の電車とほとんどおなじ。みんなどこにいくんだろうねー? 斜め後ろの席の子供の声がする。ほんと、みんなどこに行くんだろうね。青木さんの本を読み返し、きょう話すことをぼんやり組み立てる。あまり準備しすぎても用意したことを話すだけになってしまうから塩梅が難しい。喋りたいことはたくさんある。

〈そして文章における「演技性」についても話した。僕は実感を伴ったものしか書けないという話をして、柿内さんとの違いが面白かった。しかしそれはどれだけ「正直に」文章を書いたところで一切の「演技性」が含まれないという意味では全くない。「嘘か正直か」という二元論はナイーブ過ぎる〉。上記は『山學ノオト5』より。昨年のトークの日の青木さんの日記。この日は僕はどちらかといえば「嘘つき」で、青木さんは「正直」寄りなのだと話したのだと思う。先日の戒厳令騒ぎでにわかに関心の高まる韓国現代史の入門書や映画を雑駁に見聞きするうち、なぜ僕が「嘘」の側に立ちたいのかぼんやりわかってきた気がしている。

『山學ノオト5』は、真兵さんの退職前後の日記であり、労働の現場に駆動する資本の論理によって毀損されていくさまが記録されている。海青子さんのエッセイも、そうした状況に呼応するように一層研ぎ澄まされて迫力を帯びている。ここでいう資本の論理とは、ただの生き物である個人を、「そういう人」として一括りにしたり、「あなたであることを手放しなさい」と要請してきたりするものだ。そのような圧にさらされて、なおただいい感じに生きていく領域を確保するための対処として、日記やエッセイの執筆がある。個人の生き物の領域を確保、開拓、保守していくための読み書き。

お昼に名駅につく。やたら人がいる。こんなに混んでいたっけか。両親が迎えに来てくれるというのでエスカのコメダで待つ。コメダのコーヒー、笑っちゃうくらいおいしくないな。

車で名古屋城まで行く。名古屋城初めてだと思う。すこし歩くところに駐車場をとる。近くのと比べて半分くらいの料金。千種創一+ON READINGのインスタレーションを見る。文字列が庭園というフィクショナルな風景に埋没するさまは、デザイン先行で可読性の低い格好いい雑誌の感触があり、庭という場が持つ人口の自然という著しい二律背反の緊張感をより一層引き立てていると感じた。亀の歌があり、あなたたちの歌じゃん、と母が言う。せっかくなので本丸御殿も見る。ここにも現代アートの展示があり、すごく邪魔だな、と思う。贅を尽くした空間の圧に対して、オブジェの貧相さが特段なんの効果ももたらしていない。ふつうに本丸が見たかった。父とぶーぶー文句を言う。公園内のきしめん屋さんでかなり遅めのお昼。店員さんが、全体に声をかける。

もうじきお城見れなくなっちゃいますけど、もう皆さん見てきましたか? これから見るって人います? 公園は十七時までですけど、閉場十五分前くらいから、さっさと出てけみたいな感じになるから気をつけてくださいね。

はーい大丈夫でーす、と客たちも元気に返事をする。傾いてきた日射で、紅葉の朱色がよく映えた。人がまばらになった途端、カラスたちがぞろぞろと集まってくる。このへんの木々がねぐらなのだろう。どこまで羽を伸ばしてきたのだろうか。

いったん実家に帰ってお茶をする。それからON READINGへ。買い物のついでだからとこれも車で送ってもらうが、スーパーの方面とは逆だ。車の感覚。奥さんに連絡すると猫はちゃんと留守番できていた模様。よかった。青木さんは終電で帰らなくちゃとのことで、二十一時半の電車に乗ってもらわないとだった。トークは十九時半開始だから、けっこうギリギリだ。なんとなしに気にしつつ、好き勝手おしゃべり。体感としてはふだん以上に投げっぱなしだったけれど、黒田さんも松井さんもいつもより噛み合ってた、とても面白かったと好評で、やっぱりやっている側の手応えというのはあてにならない。簡単なサイン会のあと、青木さんを急かして余裕を持ったお見送り。

黒田さんに車を出してもらって、今池の麒麟楼で松井さんの引越し歓迎パーティーも兼ねたごはん会。茄子の丸揚げがとてもおいしくて、つい揚げ物や炭水化物を頼みすぎてしまい、めいっぱいまで満腹。とびきりのサウナ怪談を教えてもらう。黒田さんがみんなをそれぞれの駅や家まで送ってくれて、僕も実家の前で下ろしてもらう。こういう夜の過ごし方、高校までしかこっちにいなかったから新鮮だ。一杯気分で実家に帰ると不良になったような心地がする。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。