2025.11.18

一ヶ月くらいまさかねと思い気がつかないふりをしてきたが、もう逃げ切れない。AirPodsから異音がするようになった。もう潮時なのだろう。いや、ついさっきまでは掃除をしたり、リセットしたりでもうすこし延命できるかもと考えていたけれど、奥さんに話すと、もう買い替え時だよ、と言われて、案外すんなりとそうだよな、と思えたのだ。五年くらい酷使していて、さいきんはバッテリーの持ちもだめになってきていた。ジーンズのポケットに入れっぱなしで洗濯をしてしまったこともあったが、それからも三年くらい元気に活躍してくれた。調べてみると最新モデルは思っていたよりは高くなかったし、もういいか。ほんとうは日記に愚痴愚痴と数年で買い替えなければいけないことへの怒りを書き連ねるつもりだったけれど、思い返せば返すほど、もう充分使い古した気がしてくる。

きのうは汗ばむほどの陽気だったけれどきょうは一転寒くて、ルドンがどかしても繰り返し膝に暖をとりにくる。トイレに行きたくてやっぱりどいてもらって仕事部屋に戻るといなくて、じゃあ一階かなと思って見にいくといなくて、心当たりを探してもいなくて、あれ、と不安になって寝室を見ると自分で布団をかけて眠っていた。夜はヒトらに布団の中に入れろと首を踏んづけてくるくせに自分でできるんじゃん。

『近代小説の表現機構』を読む。小説が小説として読まれるための「よそおい」「みぶり」を表現機構と名指し、〈場面に内在的に「語ること」と外在的な視点から「描くこと」の折衷〉をめざした試行錯誤の軌跡を端的に描き出していく。

どうも最近、安易に「言葉」「人間」「状況」のいずれかにだけ還元するような発想に固執しがちであると感じているが、これは別に今に始まったことでも僕に限ったものでもなく、ひろく人類一般が陥りやすいバイアスなのだろうとも思う。

夕食は風邪気味の奥さんに合わせてきのうから出汁や生姜のきいたものを。咳は落ち着いてきたけれど歯肉炎が痛むと昨日から辛そうで、内科に行ったらこれは歯医者じゃなきゃと言われ、歯医者に行ったら免疫が落ちて親知らずが痛んでいるとのことだったらしい。いつだか、反対側の親知らずを抜いてしばらくほっぺたがぷくぷくに腫れていたことがあった。あれは可哀想でかわいかったな。またあの顔が見られるのかもしれない。

鳴き声が聞こえたので階段下の猫トイレの掃除をしようと思ったら、まだ最中だった。ごごご、ごめん!と慌てて声をかけて退散。一昔前の少年漫画でよくあった、ひとの着替えをうっかり見てしまったおぼこい少年のような反応を示してしまった。僕が二階に引っ込んだのだが、ルドンはめっちゃイカ耳で出てきて一階にいた奥さんが抗議されたとのこと。理不尽な人違い。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。