2026.04.26

枕がふっかふかのやつで、固いのがいいので寝つきが悪く、眠っても悪夢ばかり見た。それでもさすがに体は元気で六時半には目が醒める。お風呂に行く奥さんを見送って二度寝しようかと思うが、いっそ湯に浸かった方がしゃっきりするだろうと思い直し僕も風呂に行くことにする。昨晩もそうだが早朝も宿泊客のみが利用できる時間帯なのでほぼ独り占めだ。ほんとうにここの湯が好きだな、なにを参考にすれば似たような湯を見つけられるのだろうかと思いつつ、どうせ覚えていられないのでなにも調べないまま温まる。

すてきな朝食だ。ご飯は柔らかめの炊き上げなのに粒だっている。米粒とは水をたっぷり含んだグミやゼリーのようなものなのだと納得する。うまい米とはうまい水を閉じ込めるメディアなのだ。だから米がうまいだけではむしろ水のよしあしが際立ってしまうのだろう。水が内容なのだから。

食後、てきぱきと支度をしてバスの時間まで中庭でジュースを飲みながら噴水を眺める。

越後線を今度は白山駅で降りて、信濃川沿いを県民会館に向かう。あれはなんというんだろう、六人から九人乗りの大きなカヌーがいくつか走っていくのを面白く眺める。まだ時間があるので白山神社を流し、ここには十二柱くらいの神が集まってきているとのことで、恋愛成就や商売繁盛から歯痛まで、なんでもお願いできるようだった。集合住宅かな、と奥さんがいい、老人ホームじゃないか、と応える。これだけいるとありがたみが薄れる。いちばん感心したのはタマ公だった。

それから燕喜館を見学する。奥座敷だけで家より広い。新潟市歴史博物館が協力している白山神社の「新潟総鎮守の歴史」パネルにはこうあった。

この屋敷は先月奥さんが見に行ったお屋敷の一部を移築したものらしいが、一部でもこれだけの広さだ。新潟というのはものすごく都会的で、維新後の開港以来、いっそう富の集中する場でもあったのだろう。時代の先端で賭けに出る豪胆さと強運とで築かれる財の途方もなさ。

いよいよ今回の目的である県民会館に移動する。『MANKAI STAGE『A3!』ACT3』春夏公演だ。七年も続くこのシリーズ。前回の公演がマーベルの『エンド・ゲーム』的な位置付けだったのもあり、さらにはキャストの変更もあったので今回は仕切り直しという感じ。会場も東京は初演と同じ銀河劇場で、そのおかげでチケットが取れなかったからいまここにいる。

幕が上がって、幕が降りた。ある種のものの考えなさは、僕の場合このような客席でこそもたらされる。

終演後は古町を散歩。麹ドリンクをテイクアウトしたりしつつ、僕はRural Readingの航太さんに教えてもらったTADAYOIで過ごさせてもらう。奥さんは隣の喫茶店で休憩。あれこれと試着させてもらい、パジャマの受注にも悩みつつ、最終的にごきげんなパンツを贖う。かなり盛況で圧倒されてしまいあまり話はできなかったので、もうすこし落ち着いて見られる日にまた来てみたいが、子供から大人、犬までこぞりて賑々しい、いい感じの状況ではあった。抜けがありつつモノは尖っている、人懐こさと鋭さが気負わず共存するかっこいい空間だ。

新潟駅までバスで移動し、新潟長谷川屋へ。角打ちでは阿部酒造のゴールドと星のやつ、弥栄醸造の一擲という十割麹酒、麦とアガペのホップのやつを楽しみ、えいやとたくさん買って配送にしてもらう。家で飲む習慣はあまりないが、これらは楽しみたい。

宿での和食が完璧だったので、夕食は洋食にする。Mapsでピン留めしてあったビストロ・ド・またのりに行ってみて、ドリンクと牛舌シチューオムライスだけ注文。これまでいいものを食べ過ぎてふつうだたが、ふつうにおいしいほうのふつうなので、なんというか、ふつうだった。平熱の気分で駅に戻り、満たされていたのでお土産もそこそこ、大型アイドルのコンサートの影響で指定席はとれなかったので、三十分前には自由席に並んでおいたのだが正解だった。われわれは座れたが、通路から乗降スペースまでみっしり人が詰め込まれ、こんな状態で二時間立っているのは過酷過ぎた。耳を塞いでさっさと眠る。ちょっとだけ本を読む。東京からの電車で立っていても、新幹線と違って立たせることを前提に設計されているから快適だなあと思える。帰宅するとルドンがぷりぷりした感じで鳴き続け、僕が荷解きを終わらせているあいだ奥さんの膝に座り込んで気が済むまでの撫でを強硬に要求し続けた。奥さんと交代して僕は猫じゃらしで無限に遊ぶ。お風呂に入ると、おい、まだ終わってないぞとばかり廊下から声が聞こえてくる。寝る間際まで飛び回るのに付き合って、ベッドに入るとしっくりくる枕が嬉しい。すぐに猫に横取りさせる。それでも家の方が安眠できる。顔に肉球押し付けてくるのやめてほしい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。