2021.10.21(2-p.166)

今日はシネマカリテに行くぞ、ということだけ決めていた。珍しく前売り券を買っていたので、オンラインで席を確保しておくこともできず、ふらっと早めにいってその辺でお茶でも飲んでようと思っていたのだけれど、起きてなにげなくSwitch を起動してEXTELLA を遊び始めると最後のルートのクライマックスでこれはもうこのままやっちゃおう、と思ってネロちゃまはほんとうに格好いい。アルテラに投げかける眼差しの優しさにうっとりする。推し、怖。推しってこんなになんでも素敵に見えちゃうものなの? 最後の衣装の悪趣味ささえもネロちゃまらしくて超素敵。

前売り券とセットだった「SEE YOU IN THE PARK, SOMEDAY」とプリントされた『アミューズメント・パーク』Tシャツを着て、メガネもロメロ監督とお揃いのゴライアス復刻モデル。支度をしている姿を見た奥さんから、超楽しみにしてる人じゃん、と笑われる。確かに。ロメロは好きだけれどもう形としては大ファンみたいだった。けれども『アミューズメント・パーク』については「今更 公開される話が面白いワケないだろ!」と神林しおりのような気持ちでいた。ネロちゃまにうっとりしていたら時間はギリギリだった。電車では『落語ー哲学』を読み始める。枕の位置付けの話が今のところ一番面白い。話者と聴き手とを現実から噺の世界へとスムーズに移行させるためには、枕はおもしろすぎてもいけないし、現実に近すぎてもいけない。此方と彼方のあわいで、話者の固有性をほどよく遊離させるための枕。怪談のプレイヤーにおける話者の立ち位置についての話を思い出しながら読んでいる。

十分前にカリテ。アミューズメント・パークへ。ホラー映画において、冒頭と最後に解題のような一人語りを挿入する野暮──僕はこれをエド・ウッドスタイルと勝手に呼んでいる──ってなにかのお約束というか様式美だったりするのだろうか。それとも元々は教育ビデオとしてオファーされたからこそのアリバイ作りみたいな感じなのだろうか。野暮ったすぎて味わい深いのだけどもちろん余計で、しかし内容の凶悪さを考えるとこのくらいの野暮ったさがないと本気で辛くなってしまうから素直に良心と取るべきだろうか。僕の中の神林が嬉しげに足をパタパタさせるくらい面白かった。『ゾンビ』の劇伴の無頓着さを考えるだけでも十分だけれど、予算の都合でフリー素材のような音楽を適当に使うことも多かったり、とにかく音楽がいつも野暮ったいイメージがあるせいでロメロの耳に対してはあまり信頼はなかったのだけど、ロメロは音楽も含めてただ「音」としてだけ扱ってたと考えると、その扱いはかなり巧いのではないか、と思わされる喧騒の演出の冴え。陽気な音楽が空疎に響き、人々の話し声が轟々と迫る。家電量販店で歩き疲れた時の絶望感と不快感を思い起こさせる酷い音の渋滞。耳だけでなく目にも煩い。特に若くて健康な脚とお尻の氾濫がすべてを押し流す。ショートパンツからすらりと伸びる脚とぷりっと上向きのお尻をここまで凶悪なものとして撮る悪意がすごい。保険として『DUNE』とはしごするつもりだったけど、今日はもうロメロに突っ込もう。そのまま15分後の『マーティン』のチケットを取る。地上に出てさっと食べる昼食の踏ん切りがつかず、たい焼きだけ頬張ってカリテに戻る。『マーティン』も初見だ。ロメロの眼鏡をかけているくせに初見だ。そう、僕は形から入るタイプなのだ。繭期の青年が自意識過剰と欲求不満でアイタタなことになってしまう郊外版TRUMP。マーティンの顔が絶妙に綺麗でも汚くもないのがいい。普通の性欲ダダ漏れた若者の顔で、耽美さのかけらもない。それがいい。後で調べると『クリープショー』のガイコツだったり、『死霊のえじき』の科学者だったりに育つらしく、それも楽しい。さっきまで遊園地で虐められてたお爺ちゃんが元気してて嬉しい。こちらのほうが制作は後だろうか。『アミューズメント・パーク』と髪型も髭も衣装まで同じで笑えた。吸血鬼ものの定石をほとんど外していきながら、語りの配分のアンバランスさも面白い。一番緊迫感を煽るのが、電話の子機を駆使しての攻防なのが最高。電話の子機であそこまで愉快に引っ張れるの凄い。ラジオのお悩み相談と襲撃をオーバーラップさせるのもよかった。そして唐突であっけないラスト! ゾンビ以外のロメロをもっと観たい。この勢いで『ナイトライダーズ』も観せて!

映画館で一日過ごすのはなんだか久しぶりで、嬉しい気持ちだった。

帰りの電車では『脳釘怪談』を読んでいたのだが、目の前で母親と手を繋いだ小学生の男の子がちょうど表紙の目と目が合う身長で、何度も目を逸らそうと頑張るのだけれどどうしても視線が釘付けになってしまっていて、可愛かったし申し訳なかった。怖い本にはちゃんとカバーつけないとダメだよね。今日読んだところだと「びちゃびちゃの人」「私だけの十字架」「ずんどう」「かおるちゃん」「UFO、間違いのこと」が好き。読んで聞かせてあげたい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。