2022.04.18

いま、反抗期だから。

朝ようやく起きだすと奥さんは宣言した。楽しさや嬉しさについて、よりいっそうの自立を目指すとのこと。すごい、奥さんが自分の意思で成長しようとしてる! と僕はなんだか感激してしまって、愛おしさが暴発した。子供がいたとして、反抗期になるときはこんな気持ちになるのだろうか。一生懸命に自分のことを自分でやろうと、世話を焼こうとする僕にツンケンするその様子は、頼もしくて、いじらしくて、胸が詰まる。もちろん、奥さんをふざけて子供扱いしているわけだが、こんなこと、奥さんが実際にはとても聡明な大人であることを信頼していなければとてもできない。奥さんの反抗期はとにかく僕のなにかあぶない扉を開いたようで、僕は奥さんがツンケンすればするほどあたたかな気持ちになってしまう。

午前、雨が降り出す前に郵便局でレターパックを買い足す。

午後、なんだか最近忙しい。賃労働の方の話だ。めそめそ起き出し、めそめそ働く。頭や気を遣う本来業務が大盛り上がりのこのタイミングで手だけ動かしていればいいがとにかく時間を食う雑務が降ってきて、たいへん大変だ。合間に無の境地で手を動かす。会議の合間になんとか郵便局に荷物を出しに行く。

途中たまらなくなって一時間ほど仕事を放り出し、iPad のSketches Pro で12枚ほど絵を描き、GarageBand とiMovie を駆使して一分くらいの予告編をでっちあげる。突貫にしてはなかなかの出来。思いついてから二時間以内に発表まで持っていけるものをたまに作るようにすると、いい気晴らしになる。19時にツイートを投稿予約して、しっかりと働く。むしゃくしゃしたときはこういう速さだけに任せた制作に限る。作っている間は夢中だし、出来上がると嬉しい。今晩Ryota さんが告知をするとメッセージをいただいていたので思いつきで間に合わせてみたのだが、むしろフライングで先出ししてしまった。

その後も仕事を続けて、続けているうちにどんどん悲しくなってしまった。自立のためのもがきだとはいえ、あんなに冷たくしなくたっていいじゃないか。もうすこし、にっこりしてくれたっていいのに。早くも奥さんの反抗期にしょげている。もちろん今だって誇らしいような可愛らしいような気持ちがないではない。でも、僕だって気遣われたいし、優しくされたい。自分の作った予告編を何度も眺めて慰められる。昔懐かしのレンタルビデオの冒頭についているチープな予告編のイメージ。僕はもしかしたら天才なのかもしれない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。