2022.05.06

案外寝れちゃった。にしむら珈琲店でモーニングをいただき、神戸クアハウスのデイリーユース。カプセルの個室も取っていたのだけど、二時間たっぷりお風呂とサウナと水風呂を満喫したら元気いっぱいで、さっそく町に繰り出すことに。奥さんとたこ庵で明石焼を食べて、めちゃ美味しい。出汁のおいしさ! ゆずたこもたまらない。奥さんは仮眠をとりにクアハウスに戻っていった。僕は元町のほうへ足を伸ばす。

アーケードをずんずん歩く。横道に中華街の門が見えるのが楽しい。ユーハイムや風月堂の立派なお店があったけれど、本店なんだろうか。まずは本の栞。注文いただいていた『あまり読めない日々』を納品。田邉さんにご挨拶。お話をしながらついつい棚に引き寄せられる。古本の棚がたまらなくて、ここから二冊引き抜く。新刊の棚も、東京の独立系書店のあるあるを半分くらい押さえつつ、特に海外文学の棚はかなり見たことのない感じだった。興奮するも、新刊は僕のような余所者でなく町の人に開かれていてほしいな、という気持ちになって古本に絞って購入。中世ヨーロッパの怪異を扱った本と、吉田健一の詩論。アイスコーヒーをいただきながら、東京の好きな本屋についてぺらぺらと喋る。蟹の親子さんの日記、いいですよねえという話もした。『プルーストを読む生活』が、日記本コーナーと本の本コーナーのふたつに挿されていて嬉しい。

1003にはしごして、ここにも『プルーストを読む生活』がある! 迷いつつ、荷物の関係で一店につき二冊に絞る必要があった。元町映画館の本と、武塙さんの日記を買う。自分にとってあたらしい土地で本屋にばかり行っていると、「ここでしか買えない本」というのはほとんどないけれど、買った本は「あの土地のあの店で買った本」になるんだよなと思う。読書は買書からはじまる。どこで本を買うかというのは、本に極私的な文脈を付与する行為だ。今度日記の特集があるとのことで、ZINE の提案をさせてもらう。

あら、りんご。で奥さんと合流。店の前の横断歩道で信号を待っていると手を振るスタンプが送られてきて、二階、とのことだった。見上げると可愛い人が手を振っていたが、三階でも手を振っている人がいて、窓の照り返しでどちらも顔がわからなかったから曖昧に手を振り返すが、こうして書くと、いや二階だって言ってんじゃんとなるな。当時はなんだか混乱してしまったのだ。ずんだ白玉のりんごクランブルを食べる。おいしい。仙台で食べ損ねたずんだをここで。

今回の神戸行きは、エーステを観るためだ。神戸国際会館こくさいホール。春組単独公演。シトロンはもちろん誉も東さんも出る。ダリちゃんこと染ちゃんも出る。楽しみだった。とにかく誉が可愛くて、シトロンがのびのび爛漫で嬉しい。これまでよくわからなかった真澄と咲也が咲いていて、ああ、これは彼らの物語なんだと思う。綴のゾンビ。密もはじめていい子なんだなって思った。これ実質冬単の続編じゃん。一幕終わり、染ちゃんがどうしたらみんなと仲良くできるのかさっぱりわからなくて途方に暮れたが、二幕ですべてを持っていくのは支配人だった。あれはずるい。支配人格好いい。その格好よさをのちに雄三さんとの漫才で台無しにするのも含めて好き。「擬似家族」というテーマの変奏のもとにたくさんの事件をまとめる手腕は流石で、これまでの単独公演でいちばん観やすかったかもしれない。染ちゃんよかったな。あの小屋の大きさで通用する細やかな演技。顔が見えなくてもニュアンスが豊かだった。入団早々の上半身の硬さとか。ラスト近くの柔和さとか。上演中は色々と考えたのだが、客席降りで至がやってきたとき、比較的通路側の席だったので思わず「顔がいいッ」と声が漏れてしまった。ここですでにガードは崩されていて、大好きなシトロンが近くに来たときにはもう、体温が二度くらい上がっていたと思う。かわいい、かわいいッと押し殺した声で叫んで、本編の記憶がほとんど飛んだ。至近距離で見てもシトロンだった……古谷大和じゃなかった……ワキワキしてた……可愛い……

終演後は南森町さんがわざわざ来てくださって、駅前の東南アジア料理なのだろうか、色々ざっくりしたお店で夕食を食べながらおしゃべり。お互いにぐいぐい行くくせにシャイだ。フットワーク軽く会えるというのはとても嬉しいこと。僕は譫言のように客席降りはよくない、もうそれしか考えられなくなる、と繰り返していた。はあ、シトロンが、頭三つぶん先で、ワキワキしてた……すごい……

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。