神保町の海老丸らーめん。三〇分くらい並ぶ。奥さんはラーメン並ぶの初めてかもと言う。ラーメンというよりもお手頃創作フレンチといったほうがよさそうなお味。たいへん好き。アミューズとして出された白インゲンのスープからしてよい。海老ラーメンにスパークリングワイン、〆にチーズリゾットのセット。「大人のお得ラーメン」という名前で、奥さんは注文するときお得セットふたつと伝えた。僕だったら大人セットって言うだろうな。お得だからじゃなくて、大人だからこれを注文したんだと表明したいから。奥さんは、自意識がうるせえ、と一蹴した。
お昼に満足すると、その後のデートプランが空っぽになりがち。水道橋のほうから秋葉原へと出て、ヘッドホン屋さんでヘッドホンを買う。WH-1000XM5 のシルバー。シルバーといいつつ、いい感じに明るい灰色だ。ワイヤレスでこんなにちゃんと音がいいんだ、と驚く。
雨が降りそうなのでさっさと帰宅。帰り道で降り出しそうで、早足で歩くと、ああ、そういえば私たちってこのくらいの速さで歩いてたよね、この二年ですっかり衰えたね、と気がつく。いまとなっては早足だと股関節周りが軋むようだ。いよいよ降りそうな最後の二〇〇メートル。思わず走り出すとゼエゼエ息する。なんとか濡れずに済んだ。
さっそくヘッドホンをセットアップ。ガルパン劇場版で音質チェック。最高。奥さんにもローズヒップのシーンを選んで聴いてもらう。笑う。もう自宅がシネマシティじゃん。
窓の向こうは大雨で、二人しておねむ。いざ横になると眠気が過ぎてしまうようで、だらだら転がっていたらいつのまにかがっつり寝ている。
夕食から奥さんは友人たちと通話。僕は寝室のpopIn にヘッドホンを繋いで、『ライトハウス』を観る。終盤は心細さと男臭さにあてられてずっとふぐりを両手で包み込んで画面を凝視していたのだが、ノイズキャンセリング機能がすごすぎて、途中で奥さんが入ってきたことに気がつかなかった。エンドロールでようやく布団の上に『文學界』の茶封筒が置いてあるのに気が付き、上映中にいつのまにか同居人が帰ってきたこと、奥さんが部屋を出入りしていたことを知る。そうした物音は、まったく聞こえなかった。ただひたすら孤島の嵐の音を聴いていた。そしてふぐりを両手でそっと温めていた。見られただろうか、途端に恥ずかしくなる。映画を見ながらふぐりを握りしめていたなんてバレたら、もう目も合わせられない。
