いまは21時40分。帰りの新幹線に乗っている。新大阪からの最終列車だ。昨日の日記は誤字が多かったけど、まあそれも臨場感かなあと思った。そう奥さんが眠い僕を励ますから、こうして日記を書き出した。まず思うのは、ホホホ座浄土寺店をおかわりするつもりだったのに、結局行きそびれてしまったことだ。また関西のほうに遊びに来たい。すでにそう思っている。
きょうは9時に起き出して、swimpond coffee でコーヒーとミルクをテイクアウトして、ねどこで軽く朝飯を食べることにした。swimpond coffee のカウンターに西淑さんのカレンダーがあって、それは昨日恵文社でダメ元で訊いてみたらやっぱり売り切れていたもので、え、ある! と大きな声が出る。うわあ、嬉しい、つい声をだだ漏らしながらコーヒーと一緒にいただく。店主ご夫妻は、喜んでもらえてなにより、と笑っていた。宿を後にして、この時間だったらこっちのバス停だねと歩き出すと、ちょっとちょっとそのバス停はこっちでしょ、と自信満々に奥さんに訂正される。そうだっけ、とあまりの自信に信じることにして着いていくと見事にまちがえていて、角を二回左折したからさっきまでいた通りに舞い戻ってきた。奥さんは目をパチクリさせて化かされたみたいだ、と言った。奥さんにとって方向感覚とはどういうものなんだろう。そんな奥さんがこれまでの人生で唯一の一人旅の思い出の地であるという北野天満宮へ。大きくて立派だったが、あれ、こんなだっけ、と奥さんは言い、桜が綺麗だったのだというがここは梅ばかりだった。なんか、ちがったみたい。ここじゃなかったっぽい。そう言ってふたりでアハハと笑った。すぐそこの豆腐屋さんでお昼ご飯を食べた。
京都駅へと南下し、コインロッカーに荷物を預けていまいちどマンモス団地跡地へ。昼間に歩くとまた感じが違う。夜だとすべての建物がとにかく暗かったが、昼だと新しいのと古いのとが混ざり合っているのがよくわかる。「霧の街のクロノトープ」のおかわりで、昼だと霧の中にいると太陽光の乱反射が面白い。外からも見てみようと犬の散歩の途中で寄った風な人やら、走り回る子らやらを霧の形と一緒にながめていたが、やはり霧は中に入ったほうが面白いな、と思い結局だいたいは中から見ていた。
満足して、また北上し、三十三間堂に。三十三間堂は好き。格好いいのがたくさんいるから。やいのやいの言いながら見ていたら閉館時間ギリギリで、奥さんが京都駅でお土産を買っている間に大阪のルートをシュミュレートしていたらかなりタイトであることに気がついた。そこで京都線の車中で奥さんと相談して、大阪では別行動とすることにした。奥さんは大阪まで出て阪神百貨店にhellbent lab. のポップアップショップを見に行く。僕は新大阪で降りて新幹線の近くに荷物を預けたうえで本屋を巡る。そういうことにして僕は一駅先に降りて、本屋さんへと走った。
まずは緑地公園まで出て、blackbird books へ。ここは詩集や写真集が似合うな、と思っていて、スペクテイターはじめ土の臭いに惹かれつつも、田口犬男『ハイドンな朝』とルイジ・ギッリ『写真講義』に決める。あの、実は柿内という者で、と挨拶するとサインしてってとのことで二冊サインする。ちょっと慣れてきて、スマートなサインになった。毎回店でペンを借りるので、太さや細さはそこで手渡されたペン次第だ。これまでは極太のペンで、ZINE版を意識した感じにしてきたが、今回は極細のボールペンだったので、またちがった可愛らしさをめざした。では、と辞して五分後に写真を撮り忘れたことに気がついて迷った末に引き返して撮らせてもらう。
御堂筋線で本町駅へ向かう途中、これどうやっても全部はむりだ、移動時間だけ勘定して、頑張れば全部いける! と思っていたけれど、棚を眺め始めたら時間忘れてしまうこと忘れてた。ぜんぶは無理だ。諦めて行けるとこのんびり行こう。そう思った矢先、週末はFOLK が18時までなことを思い出し、いまが18時だった。諦めがついた。それでtoi books。絲山秋子の妄想の書評のがあって、わっ、と手に取る。あとはここではやはりガイブン、と藤ふくろうさんが紹介されていた残雪の文庫を引き抜き、『今夜』という雑誌がなんとなく気になったのでそれもレジに。「全身が青春」の冊子をいただけて、あ、それ新しいのですか、本屋博ではそれ目掛けて行きました、と言って、名乗るのが遅れた。ZINE版のころから気になってましたと言っていただける。僕の営業努力不足というか、一人で作って売っていく範囲ではどうしてもカバーしきれないところにこうして届くというのは松井さんのおかげであったし、松井さんの望むところであったろうと思って嬉しくなった。磯上さんは、あ、あのアドベントカレンダーのやつもよかったですよ、僕もガイブン読みだからハラハラして読みました、とも言ってくれて、すごく嬉しい。「長い一日」の20から先もいただいて、えへへ、ではよろしくお願いします、と店を出る。
次も御堂筋線でさらに南下し天王寺へ。スタンダードブックストア。上がってすぐのコーナーの白根ゆたんぽのステッカーがやけに気になって、でもステッカーは要らないので気になったイラストが載っているリトルプレスを二冊買うことに決める。お兄さんが『プルーストを読む生活』を気にされてて、手にとってみて! と念じる。七五書店に通ずる、ただ尖るだけでなくちゃんと格好よくはないけど多くの人に必要そうな本も置いている品揃えで、これは一時間でも二時間でもいたいと思うが帰りのことを考えると30分が限度だろう。悔しい。どの店でも見かけ、どこかでは買うだろうとパスし続けてきた『週刊だえん問答』を最後のこのお店で買うことにして、あとはいろいろ迷った末に大阪で買わなくてどうするんだと酒井隆史の『通天閣』をえいやとレジに。現金がもうなくなっていて、カードを切る。柿内です、と挨拶してしばらくおしゃべり。先ほど『プルーストを読む生活』を気にしてくださってたお兄さんはミシマ社の営業さんとのことで田渕さんだろうか、山田さんだろうか、1003の帰りとのことで、そこでもこの本のこと気になってたんです、とのこと。嬉しくて、ミシマ社の本もこんなに読んでますよ! と巻末のブックリストを見せびらかしたりした。楽しくおしゃべりさせてもらって、ここはまたゆっくり来たいなあ! と思いつつ新大阪へと引き返す。新大阪には好きな人がいるので。
奥さんと合流。551とりくろーおじさんを買うけどまずは夕飯かなあ、と奥さんが言うので、地下で鉄板焼きのスパゲッティを食べる。お互いの大阪を報告し合い、楽しく過ごせた様子。ほこほこと上に戻ると、551もりくろーおじさんも閉まっている! 奥さんは、そりゃそうだよね、と言いながらもショックで呆然としていた。朝から思惑がだいたい外れていて、そういう日のようだった。なんだかんだで新幹線もギリギリで、終電だった。自由席で余裕で座れた。しかし疲れた。いまは22時40分。ちょうど一時間、こうして思い出し、書き続けていたわけだ。