2022.09.29

一日引きこもってアニメと漫画漬け。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』を観てべちょべちょに泣く。後半はオープニングからずっと泣き通しで、終わると脱水気味で頭が痛い。はー、泣いた泣いた。このシリーズ、冷静に考えてみるとシナリオはあんまり好きではない。泣かせの手札、家族しかないんか、と白けさえするのだが、アニメーションの圧で泣かされてしまう。むしろシナリオがほどよく空疎だからこそ、綺麗な絵が動く快楽にまっすぐ集中できるという面もあり、何が語られているかというのはじつはそこまで重要ではないことも多い。『リコリス・リコイル』もそうだった。内容だけ抽出すると恐ろしいほど屈託なく自発的隷従を発揮しているだけの主人公と、あまりにも幼稚で杜撰な悪役との、とくに鋭く対立するわけでもない話で、治安という非常にやっかいなテーマをてきとうに済ませて、とにかくキャラクターの表情の多彩さや重心移動の描写の精緻さなど絵の喜びで一点突破するいいアニメだった。

お昼の後は奥さんとスクリーンで『メイドインアビス』の最終回。今期は原作を読んでからの視聴だったのだけれど、回想の処理など構成の整理がよくわからないところも少しありつつ、ほとんどは巧く機能していて、背景の奥行きや安定した作画のクオリティの高さに毎回びっくりしながら観ていた。連載のペースからして、次のアニメははやくて五年後とかだろうか。僕は大体のものに今更というタイミングでハマるので、あっという間に追いついた後、気長に続編を待つという経験が待っていると、初期から根気強く付き合ってきた先人たちのすごさに慄いてしまう。

それは漫画もそうで、僕がいま更新を楽しみにしている漫画は『正反対な君と僕』、『千年狐』、『宙に参る』、『児玉まりあ文学集成』、『鬱ごはん』、『チェンソーマン』といつの間にか結構ある。『僕のヒーローアカデミア』は厳格な単行本派だ。そこに今日ひとつ加わった『コーポ・ア・コーポ』だ。読切の『セーフセックス』は読んでいてすごく好きだったのだけど、その時はこの漫画にまで辿り着かなくて、今回タイムラインに流れてきたのを何気なく読んだらぶっ飛んで、Twitterに上がってるのやWEB の連載で公開されているぶんを一気読みして、そのあと結局既刊を全部Kindleで買って通しで読んだ。吹き溜まりで退屈しきっている感じ。淡々と続く日々の切り取り方が鮮やかで毎話本当にすごい。いくらでも露悪的にセンセーショナルに盛り上げられることもできてしまうような題材を、美化するでも断罪するでもなく、ただ同じ視座に立って静かに切り取っていく。平熱で渇いた描写。ただ人間がいる。

Kindle Unlimited で読めるしょうもない漫画を読み捨てて夜。夕食の後は野口準と九門が出てる舞台の配信アーカイブを奥さんと観る。青い鳥文庫のミステリーみたいな懐かしい感じだった。キャラクターの立て方や関係の描写がミステリーのシリーズものの方法そのもので、じっさいシリーズものなのかもしれない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。