2023.01.13

ちみちみと大事に読んでいた野矢茂樹『ウィトゲンシュタイン『哲学探求』という戦い』を読み終えてしまった。頭の体操のようで楽しく、一章読み終えるたびに頭が爽やかに疲れるいい読書だった。これでとうとう『哲学探究』に取り掛かることができる。今年はフーコーの『世の歴史』とウィトゲンシュタイン『哲学探究』、そして石牟礼道子『苦海浄土』を三本柱に読んでいくつもりだがどうか。大澤真幸の『〈世界史〉の哲学』も面白いから、近代を読み終えてから既刊を遡りたい気もするし、師匠である見田宗介の全集を崩していくのも面白そうだ。こうやって読みたい本が渋滞しているのは久しぶりで、それこそ三年ぶりくらいだ。感染症流行以後よたついていたリズムがようやく修正されだした、あるいは、足元がぐらついたまま読むフォームを身につけたということにしておきたい。

精神的な不調は、既知の手順で確実にできる作業で、形に残るものを作って達成感を得ることでやり過ごせばいい。そんな言説がある。奥さんは最近この考えで家にある古紙を上手に折って小さなゴミ箱を折っている。僕は模様替えの気分でポイエティークRADIO のアイコンを新調した。他のポッドキャストを見ると更新のタイミングの前後で新旧のアイコンが切り替わるようになっていてあれがやりたかったのだが、設定してみるとこれまでのエピソードのビジュアルも総とっかえになってしまって、どうしたらよかったのか。まあそこまでこだわりはないからいいか。僕は髪型も気まぐれに変わるし、とにかくひとつのイメージに落ち着きたくないらしい。そのくせ帽子や眼鏡でわかりやすく自分を戯画化したりもする。これは本屋巡りの際に認識されやすくなって便利というのが大きい。できたら筆名をあと三個くらい持ちたいが、そんなに書くことに幅を持てるほどの器量はない。なんにせよ手を動かしたので元気。本も読めるし最高。

お風呂の中でKindle Unlimited に入っていた『電柱鳥類学』を読んで、お茶目な脱線がなければページ数が半分ですみそうな軽い本だが、脱線のお茶目さを味わうべき本で、たいへん愉快だった。あしたは電柱を見上げながら外を歩きたいな、と思うが、雨らしいから鳥はいないだろう。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。