2023.01.26

立川までの道のりはいつも緊張する。遠いし、電車がよく止まるから。きょうもどうなることかと思ったが、ちゃんと余裕をもって到着することができた。車内で『映画原作派のためのアダプテーション入門』を読み終える。PTA のピンチョンを観直したくなる。あるいはピンチョンを読みたくなる。まだ『重力の虹』しか読んでいないから、いくらでも楽しみはある。駅構内のワンタン麺屋ではやめのお昼を食べる。セットの麻婆豆腐丼がうまかった。

そして季節が一巡する。エーステの冬が来て、ACT2が終わっていく。ガイさんは歌が上手でBUCK-TICK のあっちゃんに見える。シトロンにははしゃいでいて欲しいなと思う。綴との漫才は凱旋公演で観れると信じているよ。今回は歌唱シーンがふんだんで、ほとんどミュージカルだった。取り戻した感情の迸りとしての歌。奪われたものは歌として蘇る。客席から。地の底から。海の向こうの板の上で。

果実園リーベルでおやつ。フレンチトースト、奥さんはパンケーキ。マンゴーやパイナップル、苺にキウイさらにメロンがごろごろ載っている。ソフトクリームまで付いてくる。おなかいっぱいで、でもせっかく立川まで来たのでガレーラ立川で擬似はしご酒。気圧も下がっているから頭が痛いし、満腹で苦しいし、お酒を飲める体調でもないのだけど、立川まで来てただで帰るわけにはいかない。自らの愚かさを自覚した上で、あえて理性を捨てることを選択するのだ、そういう決意を奥さんと確かめ合って向かうと、寒さ対策でシャッターが降りていて、入口を見つけるのに難儀した。入ると各店から元気よく歓迎のあいさつが投げかけられて、入りにくさを乗り越えたものたちへの賞賛なのだろう。奥の五百円酒屋でもずく酢とトマト、日本酒を一杯。隣のバーでは金柑のジントニック、ブロッコリーの茹でたの、イワシのマリネ。おやつが充実していたからこれだけでお腹がいっぱいになってしまってすこしだけ物足りないが、潔く帰宅する。飲み食いしたら体調も気分もよくなっていて、ふわふわほこほこした気持ちで郡司ペギオ-幸夫『群れは意識をもつ』を読んでいた。舞台の上の肉体群は、共演者や観客、照明や音響といった環境との相互作用の中で、個性や目的を持った身体となり、振り付けられた情動を実現していく。舞台に表現され客席にまで作用する諸感覚は、個々の俳優の意識的な計算にだけ還元できるモノでもない。それは劇場という環境の中でコトとして振る舞うように見える。劇場内のアクターは外見上おのおのがモノとして独立した個体でありながら、出来事そのもののようにも見える。舞台上の一人が俯けばこちらは悲しい。笑えばこちらも嬉しくなる。不思議なことだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。