2023.02.10

きのうは虫歯よりも色素沈着を優先してほしい、と愚かしい選択を自分にさせてあげられてえらかった。奥歯の詰め物が取れやすいのは寝ているときの食いしばりが原因ではないかとのことで、来週はマウスピースの型を取る。虫歯はまだ削るほどじゃないから急がなくてもいいよ、とまで言ってもらえて、気に入らなかったらどんどん医者は取り替えるといいな、と覚える。僕は僕に都合のいいことを言ってくれる人が好き。

『〈世界史〉の哲学 近代篇2』と『青い脂』という二冊の青い本がいまの僕の本なのだけど、『若者保守化のリアル』の返却がちかいのでしぶしぶ読みだすとけっこう面白い。とにかく気になったらすぐ取り寄せて、図書館で上限ギリギリまで借りて、別の人の予約が入って延長もできないまま返却期限が近くなってきたやつから読んでいくというのは、こちらの気分と関係なしに読む本を選ばされてしまうところがとてもよくて、いまこれを読む感じでもないんだよな、という一冊が偏って凝りがちな読書の気分をいい感じに撹乱してくれる。何年でも寝かせておくけど必ず読むと決まっているような本は、とりあえず買っておいて平気で待たせておく。読む本と買う本とでは待たせられる年数がちがくて、ただ読みたいだけなら期限に急かされる図書館のほうが読める。買った本はすぐには読まれない。それでも、これまで、いま、これからに渡る読書の文脈を作っているのは、買ってかたわらに放っておいている本たちのほうなのだ。

日記を書くための助走としてとにかくなんでも公然と書き散らかすというのを前まではツイッターでやっていたのをマストドンでやると、何かが変わるでもなく文字数制限だけが140文字区切りから500文字超になった。短文にいちいち区切られることで考えが前に前に進んでいく感覚というのは確かにあったが、あんまり字数の制限を意識せずにだらだら書けるというのはいいもので、だったらメモにでも書いていればいいものをわざわざ公開するのは、読まれるかもという意識が最低限の体裁を整える気にさせるからで、じっさいに読まれるかどうかはあんまり関係ない。相手にされようがされまいがてきとうに書いて広げて散らかしていくのが楽しい。誰にも受け取られるあてのない文字の配列をフフフ……とひとり試しては捨て置く場。それが僕のインターネット。

そう、ここが僕のインターネット。フフフ……

奥さんがSwitch でゲームボーイのカービィを遊んでいて、懐かしかった。奥さんはアクションが下手なのでカービィですらギャーッ痛ェッと大はしゃぎで楽しそう。僕は奥さんがゲームをして悲鳴をあげたり悪態をついているのを見ると、真剣に遊ぶことのよろこびがこちらにまで伝わるようでうきうきしてしまう。楽しいね! 奥さんは一面をクリアするとさっさとカービィを捨置いて『HADES』を始めた。僕が買って放置してるやつだ。コントローラーがダメになっていてつねに左方向に入力がなされている状態になっていて、そんな状態ではカービィすらまんぞくに操れない、ましてや冥界からの脱出なんて!

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。