言語や貨幣から、セルフレジやスマホアプリに至るまで、あらゆる道具には取り扱いのルールというか仕様があって、それらに準拠した使用をしないとうまく機能しない。機能しなさにはグラデーションがあって、言語なんかは多くの人がめちゃくちゃな使い方をしてて、それでもなんとかなっちゃうことも少なくない。デジタルツールはそういうめちゃくちゃな使い方はできなくて、「や、それは仕様にないので……」と突き返されるぶん、よりいっそう人間の側が設計の仕様に合わせていくことになる。
すくなくとも90年代以降の生まれの僕のような個人は、こちらの生理でなくて道具に合わせるように、自分を規格のほうに適応させていくというのがふつうで「自然」なことになってる。
こういう時代の感性は、要件定義の枠の内外を明確化し、規格に合わないものを外へと排除していくことに疑問を持ちにくいのかもしれない。じっさいインターネット上のコミュニティは簡単に排他的な閉鎖性を確保できたりもする。だからこそ、ここでなされるやり取りはどうしても「出ていけ」「追放しろ」に帰着しがちだ。実生活における政治は、本来「開かれている」というか、「閉じこもれない」ことが前提のはずなので、追い出す/追い出される外なんてどこにもないのだけど。
そんなことをマストドンに書き散らかしていたらうっかり大手のサーバーをブロックしてしまったみたいで、たぶん二十人くらいとの相互フォローが外れてしまった、ちゃんと確認してないのと通知を切ってるからあんまりわからない、とりあえずタイムラインを遡ってやり直せそうな人のぶんはフォローし直した。フォロー数は積み上げてきた資産、みたいな意識がTwitter にはあったけれど、検索の不便なマストドンはエゴサもできなければ告知にも向かないのでまったく数に興味が持てないと思っていたけれど、せっかく増えてきてたのにもったいないな、とは感じたので、やはりどこかで数は大きいほうがいいと考えているらしい。愚かな人間。
会社をはやめに抜け出して『NOW LOADING』観劇。とってもよかった。キャパ40弱の空間での贅沢なアーバン・ポップ・ミュージカル。至近距離で歌い上げられるポップなミュージックの親密さと、それでも客席と劇空間とははっきりと隔てられているという遠さの共立。演劇における近さと遠さの奇妙な同居を、動画配信者の非対面の交流というプロットと重ね合わせていく。
俳優のお二人の体重移動がすごい。目の前でかなり大きなマイムもあるにも関わらず、まったく足音が聞こえない。足音のなさや、音響の処理のしかたなど、音で表現される近いのに遠い距離のありかたも巧み。無謀な約束を果たすべく一人がゲーム空間を駆け出すシーンがあるのだけど、このシーンの静けさが見事で、思わず涙ぐんでしまった。あと素朴に歌が上手い。このサイズの小屋でこれだけの歌が聴けるというだけで嬉しくなる。
本作は企画制作から俳優の二人で立ち上げているらしく、作品について、あれこれと雑談しているポッドキャストを今日は聴いていた。「脚本脱稿した!」「スタッフさんがオファー受けてくれた!」「劇場おさえなくちゃ」「予算組どうしよう、助成金いけるかな……」みたいな話が盛りだくさんで、稽古終わりのサイゼリヤでなされるおしゃべりみたい。作品の生成過程の、具体的な段取りが帯びるわくわく感がパッケージされていてとても楽しい。アルバイト事情など、生々しい話が素直になされているのもいい。これを聴いて観に行きたくなったのだった。
天羽尚吾さんはペダステで観ていたが、鈴のような声と涼やかな顔で、線が細いのに芯の強さが滲んでいて魅力的。海老原恒和さんは初めてで、この人は何者なのだろう。剛胆さからナイーヴさまで表現する演技力があり、一度聴いたら鼻唄が溢れてしまうメロディを作り、きれいな声で歌を歌う。最強では……?
夜は劇場のあるビルの一階のアフガニスタン料理屋でごはん。乳酒やどんぐりのリキュールを楽しみながらパンとのパニールのサラダ、キーマブラニ、ラグマン、フムス、羊や鶏の串焼き、デザートまで食べちゃう、ムハレビ、チャイシャーベット。とびきりおいしくて、観劇の感想をしみじみ語らったり、ぎこちなく黙ったりした。大変楽しい夜だった。近所のサウナは水風呂が野外プールらしく、全裸で泳げてしまうらしい。またこのへんに来たいものだねえ、と話す。東中野のブックオフは店のガラスに「精神世界の本大歓迎」と張り紙がなされており、なぜ──と気になって思わず店内の精神世界コーナーを確認してしまった。棚二本分に、硬派なキリスト教や仏教の研究所から、あやしげな予言書まで節操なく並べられており、そのこだわりのなさにますます謎は深まった。
家に帰ると洋服が届いてる。ハトラのパーカーの2015年モデル。当時会社員になりたてで、とても手が出なかったすてきな服。中古でお手頃だったのを見つけてしまって買った。とても可愛くてごきげん。この買い物は過去の自分の貧乏への復讐。
