2023.04.05

午前中からそわそわしていた。午後イチで在庫が届く。エレベーターで上がってきてもらうのに10箱ずつしか持ってこられなくて申し訳ない。三往復してもらってようやくぜんぶ受け取る。寝室が31箱で埋まる。すべて開けて検品するのにも場所が要る。検品を進めつつ並行して奥さんに梱包をしてもらって、書店に送る用の荷物がある程度できあがったら僕が郵便局までもっていくという段取りにする。

エレベーターで一緒になった女の人は膝くらいの背丈の子供たちを三人連れていて、三人はその人を見上げながら口々に、ねえそのピアス新しいの? きょうもかわいいね、そのリップすてきね、と話しかけていて、なんて可愛らしいのかしら、と驚く。

キャリーカート──家庭内通称ガラガラ──を駆使しても郵便局まで一回で運べるのは3箱。郵便局までの往復で20分。六往復。20箱。お尻の付け根から太ももにかけて、感じたことのない肉体の軋みが。

もう絶対でかい本なんて作らない。

そう思っているがまったくあてにならない。肉体的にはしんどいが出荷も楽しいからだ。むしろ大量の在庫を前に奥さんと力を合わせてどんどん捌いていくのこそ醍醐味とさえ言える。でももう懲り懲りです。郵便局の前はスロープになっていて、ガラガラを引き上げるとき気分はもうペダステの鯨井さんだった。もう一歩も動けねえ、でも、進むしかねえんだ。両足がぷるぷるする。手首が熱い。腕が棒のようだ。郵便局の窓口が閉まる時間が迫って何度も応対してくれた人が、これで終わりですか、と声をかけてくれる。汗だくの僕はにっこり微笑んでいう、はい、きょうは。きょうは、と係の人はおうむ返しに呟く。はい、また明日来ます。恐怖大量出荷男。それが僕だ。腕が痺れ、手首が痛む。このしんどさが新鮮な明日のうちにもう三往復くらいしなくちゃならないの、すごくいやだな。

奥さんにお礼のハーゲンダッツを買って帰る。そういえばお昼を食べそびれた。唇まで白くなってしばらく寝込んだ。奥さんは明日出荷ぶんの梱包までてきぱきと済ませて、昨日から仕込んでいる肉でカレーまで作ってくれた。よぼよぼと起き出して一口食べると肉の脂がじわぁっと染み込んで、ああ、これが五臓六腑にというやつか、と感極まって泣き出しそうだった。おいしい、おいしい、と食べながら顔色はみるみるよくなる。三杯平らげた。ゆっくりとお風呂に入って、マッサージもする。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。