2023.04.27

酔っ払っても日記は書く。

お昼から円盤に乗る場に行って、つじこさんと打ち合わせ。実話怪談の手法を用いつつ、人をほぐすテキストを制作するという企画で、今日はつじこさんが採話してきたエピソードを聞かせてもらう会。たいへんよい話が多くて、これを上演用のテキストにどうアダプテーションできるか、あれこれと考えを巡らせる。わくわくする試みだ。

つじこさんはこのアトリエで「サロン乗る場」という上演を行なっていた。これはリラクゼーションであるもみほぐしを演劇として読み替える試みで、今回はギャラとしてまかない版を受けさせてもらえることに。この上演のためのプレイリストがスピーカーから再生される。片方からは焚き火の音、爆ぜる枝枝の音がする。もう片方からは音楽、JR東日本をご利用いただきありがとうございます、というアナウンスが周期的に流れてくる。どこ行きで、次の駅が何かは聴き取れない。おそらく次の駅には着いていない。延々と同じ区画で循環している、線路というリニアな存在を想起させることで、施術の時間を意識させつつ、じっさいにはこの体はつねにひとところにいて、どこにも辿り着かない。ふだん受けるリラクゼーションと較べて、これは上演なのだと意識するからだろうか、パフォーマーであるつじこさんに体を読まれる感覚が強くあった。この体は読まれることでテクストとなり、揉みほぐされるなかで展開されていく。もみほぐす手も、もみほぐされる体も、上演と名指されたものの内実であるとして、それではこの作品の宛先はどこに?

足裏はまだ世間話で、右の太腿にいたってようやく時間もドープなものになってきた。右の肩甲骨のやばみがすごい。そうつじこさんからフィードバックをもらうことになる上演中、僕はどんどんゆるむ体に、先に聞いていた怪談や、滞っている往復書簡のアイデアがずるずると入り込んでくる感覚があり、いますぐこれを書き留めたいような心持ちになっていた。頭のなかを流れるものに、文字の形を与えるのがもどかしいような気持ち。それはなんだか久しぶりのような気もした。とうに約束の時間を過ぎてしまったような感覚があったけれど、じっさいは五分ほど余裕があった。

友田さんがいらして、つじこさんに紹介する。読むと肩こりの治る小説を書こうとする作家と、もみほぐしを演劇化することを考えている俳優の邂逅。可笑しな話がなんの戸惑いも断りもなしにするするとなされていて面白かった。このお二人が出会したのはいいな、と思う。それから友田さんと『ナンセンスな問い』を巡ってたっぷり一時間半録音。たいへん面白かった。録音後もおしゃべりは絶えず、一時間弱アトリエで過ごしたあと、近所の食堂で一杯。ビールではじめて、山形の地酒を二合。アスパラガスの昆布じめ、いわしのぬた、がんもどき、むきそば、山菜の天ぷら。むきそばとは蕎麦の実の剥いたのをつめたい出汁をかけて食べるもの。はじめて食べた。するっと美味。二軒目ではつくねとごぼう揚げ。レモンサワーを二杯。あれこれと楽しい話があって、ごきげんに解散。酔い覚ましに一時間くらい歩いてから帰った。二軒目に入った頃からひゃっくりが止まらなくて酔っ払いみたいだった。酔っ払いっぽさと酔っ払うは少し違う。ひっくひゃっくとけいれんする横隔膜を感じながらまるで酔っ払いみたい、と思いながら酔っ払っていた。ひっくひゃっくと歩いてお家が見えてきた。

帰宅してもニコニコしていたら、可愛いから、と素面の奥さんに何枚か写真を撮られる。ピースしてとびきりの笑顔をつくる。お風呂で汗を流しながらこの日記を書いている。きょうは酔っ払うと決めていたのだから先に書いておけばよかったものを、結局イチから書いている。汗がたくさん出る。もみほぐしの効能もあるのだろう。おかげで酒はどんどこと浴槽に溶け出していくようで、これを書き上げる頃にはだいぶシャキッとしていそうなものだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。