2023.05.05

奥さんは本格的にダウン。甲斐甲斐しく看病しようと張り切っていると、私が臥せっているときにあなたがいるの珍しいね、と言われる。たしかに同居して以来、奥さんが体調を崩すタイミングで僕は実家に帰ったり旅行に行ったりしがちで、最愛の人が独りでぐったりしているとき、だいたい僕は外で美味しいものを食べてる。そういう実績があるから、余計に親身になって世話を焼きたくなってしまう。布団の上でへたっとしている奥さんを見て、なんて可愛いんだろう、と思う。同時に可哀想で仕方がなくなる。できることなら代わってあげたい、そんなこと利己的な僕は思うはずがないとつねづね考えていたけれど、奥さんがつらそうにしていると僕が代われるものならと平然と思っていて、気負わなくても自然そうなるのだなと知れた。

カレーライスが食べたくなって朝昼兼用で作る。たぶん夕食もこれになる予感があるから多めに作る。あなたは何食べる、卵うどんでもつくろうか? と尋ねると、炒飯食べたい、と返ってくる。食欲は元気。ベーコンとネギと卵でさっぱりめの炒飯をつくる。もりもり食べれて、食欲はあるね、と声をかけると、それだけが取り柄、と頷く。

何か欲しかったらいつでもslack に投稿してね、と隣の部屋で本を読んで過ごす。『哲学の教科書』と『日本エッセイ少史』を行ったり来たり。『日本エッセイ少史』はさくさく読めるけれどしっかりと一つの軸をもった通史として把握できもする本で、要所要所にチクチクと皮肉が効いていて楽しい。買い換えたごみ箱を組み立てる。

夜はやっぱりカレー。奥さんも食べる。もりもり食べる。それだけが取り柄ってさっき言ったけど、と奥さん。体調を崩しても食べられるってことはそれだけ生命維持の意欲があるってことだから、やっぱり見どころがあるよね。そうだね、はやく元気になるといいね。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。