朝はスクランブルエッグとソーセージ。奥さんのために市販薬やらの買い足しに出かけ、家の補充を済ませるとまた家を出る。『僕のヒーローアカデミア』の舞台版、通称ヒロステを観に行くのだ。わたしのぶんまで楽しんできてね、見届けてきて、そう言って見送る奥さんに向かって、病床の奥さんを置いてけぼりにすると美味しいものが食べられたりいい思いをしがちな僕は、だから今日の舞台もきっと最高だね、などと軽口を叩いた。
浜松町からモノレールに乗るとすぐに大井競馬場が見えてくる。流通センターもすぐに通過する。文フリ楽しみだな。天王洲アイル駅はすぐ隣だったはずで、僕は血の気が引いた。これは空港に直接行くやつ──
第3ターミナルから慌てて引き返す。車窓から飛行機が見えて得した気分。離陸前の飛行機は眺めるだけで遠くに行った気分になれる。開場時間ぴったりに着く想定だったからまだまだ余裕はある。僕は劇場になるべく長く滞在したいから、できることなら開場してすぐに席に着いていたい。三階席だったから、階下の客席が次第に埋まっていく様子、どんな服装の人が多いか、ひとりか複数か、この空間を共有する人たちがどんなふうなのかをその表面だけをなぞりながら空想する。この時間が好きなのだ。いよいよ開演。暗転明けのサスの下にいる人物を認めてすでに涙腺がゆるむ。そこから怒涛の回想パートで、これまでの三回の舞台のクライマックスがミックスランチさながらに豪勢に振舞われる。そして極め付けは第一話のあの台詞。この物語のオリジンへと至る。そして群舞。もう鼻水と涙でマスクの下はべちゃべちゃだ。替えを忘れたことを後悔する。そして本編は家庭訪問から始まるのだからもうどうにも収まらない。ずっと鼻を啜っていた。部屋王決定戦パートで各キャラクターの紹介を兼ねるのは巧いと思った。ここでようやく落ち着くと梅雨ちゃんのお話でまたボロボロになる。もう冷静に観られたものではないが、天井の高い劇場に映える空間の処理は健在で、とにかく役者の移動で目がずっと楽しい。左右だけでなく奥行き、さらには高さまで使った人の群れの行き交いはそれだけでいいものだった。幕間のあとはずいぶんと落ち着いて、デクとかっちゃんのシーンはメインが二人なのにちっとも静的でないシーンが作られていてたいへんよかった。映像の使い方はたまにダサいのだけれど、人の体と声で芝居を作るという意味では毎回とてもレベルが高い。満足だった。
帰りがけに食べそびれたお昼としてラーメン。もう夕方なので、夕飯になった。奥さんはずいぶんよくなったらしく、唐揚げが食べたいとのこと。買って帰る。おいしそうに食べていた。寝る前にはカレーも食べていた。きのうはほとんど食べられていなかったから、二日分を取り戻しているのだろう。僕はつい嬉しくなって奥さんとにこにこ過ごしてしまうが、ここで油断してはいけない。念押しでもう少し寝ないと。でも、ちょっと一緒に遊びたい。『スキップとローファー』を三話まで見た。なんていいアニメなんだろう。
奥さんはまだ喉が怪しいので録音はひとりでする。柿内正午ゲスト回と銘打って一人で雑談をした。台本もなしに、嘘のお便りだけ仕込んでの見切り発車だったが案外しゃべれるものだ。結局ひと息に五〇分弱しゃべり続けていた。独りで。ちょっとした狂気である。非常な満足感と疲労がある。配信準備して、日記を書いて、Twitterに『会社員の哲学』の宣伝を書いて、今日をおしまいにする。
