2023.06.18

池袋に公演を観に向かう電車に乗り込んでくる人がいて僕たちはドア前にいたから身を寄せてスペースをつくった。余白に乗車したその人は幼なじみでびっくりした。偶然おなじ電車のおなじ車両に乗り合わせるというのは宝くじよりすごいだろうか。こいつァ朝から縁起がいいわえ、ということで買っておくべきだったか。もったいないことをしたかもしれない。

八天堂のクリームパンを広場でお腹に入れてからマチネ。パフォーマンスとしての満足と、芝居としての不満とが同じくらいの量ある作品だった。あまりに屈託なくオリンピックや前首相への素朴な共感を表明したあと舞台上に日本の国旗が濫立するシーンに至る一連が寒すぎてぞっとした。歌や踊りはとても格好よかった。こういう部分否定の上手なやり方を忘れてしまったな、と思う。一点でも信条として否定すべきものがあったとき、全体を拒絶してしまうというのはあまり好みではない。それは敵を増やしたり固定するだけで、友達を増やさない態度だからだ。

千登利でセロリ、肉どうふ、やきとん、葱ぬた。赤星を一本。奥さんはお酒を一合。たいへんおいしくて楽しい。向かいのバンバンでエーステの歌を二時間たっぷり歌って喉を枯らしてもまだなお外は明るい。さいきん気になる晩杯屋を覗いてみたが満席で、でももうすこし遊びたかったので椿屋で甘いものを食べる。帰り道に録音。先の舞台の話をしていたらどんどん袋小路にはまっていく感じがあってやはり難しい。途中コンビニでカップ麺と甘味を買った。録音を終えてシャワーを浴びるともう日付をとうに越えていて、それでもカップラーメンを食べちゃう。ゆずスープでだいぶあっさりめ。やさしい罪の味だ。そう評すると、J-POPかよ、と奥さんはげらげら苦笑した。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。