2023.07.17

四時ごろ熱に浮かされて目が覚め、そのまま苦しんでいるうちにカーテン越しに白んでいく空を察知し絶望する、そのようなことはなかった。目が覚めた途端に喉の痛みを自覚し、水を飲もうと立ち上がると目眩がして体温の異様な高さに気がつく、そのようなこともなかった。朝までしっかりと眠り、なにごともなく起き上がることができた。いや、すこしうそだ。昨晩はほとんど眠れなかった。腕時計によれば「6%のユーザーよりも良い睡眠」で、スコアは49。寝入りは3時59分で、目覚めは6時32分だそうだ。それでも、僕は元気だった、いや元気ではないが、熱もなければ節々の痛みもなかったのだ。ようやく解放された、そう思った。

シーツやなにやらを洗濯。ベランダに干そうと思ったが風が強くて断念。そもそも物干し竿も窓も通りから巻き起こる粒子レベルの汚れが何年分も積もっていて、すこし水拭きするだけで真っ黒になる。こんなところに干してはむしろ悪くなる。同棲したての前の家では外干ししてあっという間に乾くのがけっこう好きで、奥さんと休みも合わなかったから自分の休みはだいたい洗濯を干しながら、ああ、いまとても満たされているな、と噛み締めるような日がいくつもあった。いまでは部屋干しばかりで、気が滅入るが、しかしやはりこのベランダには干せない。

快気祝いにゾンビでもやろうと『YAMMY』を観た。ずいぶん気前のいい映画で、だいたいのゾンビが腹からなんか泡立った汁を垂れ流していたり、頭蓋骨が軽羹なみにやわそうだったりして、主人公のおっぱい以外のあらゆるものが守られない。すべて血や汚物にまみれて断片になるまで破壊される。うさんくさい美容外科発のゾンビということだったが、この組み合わせは今作だけに留めずもっと発展させてもいいと思う。彼氏の血液恐怖症とか、母との確執とか、それこそ『ブラックシープ』のように成長譚としても織り込めそうなものをあまり活かさないまま放置していたり、よくいえば贅沢な作劇で、いやしかしもっといくらでも料理できたろうにと思わずにはいられないが、とにかく景気良く臓物がぶちまけられるので物語はまあどうでもいいよなとも思わせてくれる。元気が出た。

ハイラルにも復帰。炎のキングギドラの頭をひとつひとつ潰し、動かなくなったところで筋に沿って腹を捌いて紫がかった臓物を掻き分けると薬になるという肝臓が見つかるのでていねいに袋詰めにした。

お風呂にも五日ぶりくらいだろうか、入って、うれしくて、Kindleで柄谷行人を読み始めた。さすがに少し疲れてもう眠い。空咳はしつこく続いている。でももう大丈夫かな。きょう一日ずっと平熱だった。あしたは外を歩いてみよう。ちょっとそこまで。クリックポスト出しに。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。