家を出てすぐさま風に煽られて、折りたたみの日傘の骨が二本残してあと全部折れた。それでもないと無理だからさしていたのだが、路駐の車の窓にうつるシルエットが完全にホーンテッド・マンションに出てくるそれだったのでさすがに諦めた。暑すぎる。
品川から徒歩五分の古いマンションの一室で各部屋を貸し会議室にしているレンタルスペースがあり、そのなかでももっとも狭いであろう三畳間みたいなところに詰めて宮崎さんと『文學界』アピールのための録音を行った。ノイズが入らないように送風機を止めていたのだがどうにもならず結局つけた。ひとまずはお互いの原稿の話を中心に随筆かいぼう教室の話なんかもして、ほかの寄稿者のエッセイやルポに個別具体的にお話しするところまでは行かず。それで小一時間。『文學界』の発行部数の千分の一にも満たないような聴取者のポッドキャストで宣伝をする意味があるのかはかなり疑問だが、いい話ができたような気がする。
そのまま御茶ノ水に出て、山の上ホテルのコーヒーパーラーで両親と豪華なおやつを食べる。プリンアラモードとタルトタタン、マンゴーとパインのパフェ。これを三人で仲良く分け合う。パフェは貴族の食卓に運ばれてくるもったいぶった料理に覆い被さった銀の蠅帳、あれのスケルトンのやつみたいなので出てきて、中はもくもくと白く烟っている。パフェの上の方だけのぞいていてなんとも期待をそそる。これをジャーン!と開けるともくもくのなかから鮮やかなパフェの全景がご登場してごきげんだ。スモークは添えられた器のドライアイスで焚かれていて、だからこの演出は味には関係なく、ただ楽しいからなされていて、とてもよかった。美味しかった。プリンは普通で、当時の復刻メニューとのことで昔よりもごはんは格段においしくなってるんだろうなと考える。『文學界』の原稿を読んだ母は、なんだかさっと一読しただけじゃよくわかんなかった、と言う。僕はこの日記もそうだが長らくいまの僕の文脈を共有していない両親になんかいい感じに響くものを書こうと考えていたが、いつの間にかすっかり別の誰かに向けて書くようになっているなと思う。しかしやはり既存の界隈の問題意識などチンケなものなので、誰でもはじめからさらっと読めてなおかつ文脈の共有に留まらずヘンテコなところまで連れていくように書くというのは手放さないほうがよいだろうとは思う。ズラしたいのであって、ズレたいのでないのであれば、そのへんの人たちにいきなり読ませても、ああ、と思われるものでなければいけない。まあ、どっちだっていいんだけど。
そのへんを散歩して夜は源来酒家の円卓。奥さんと妹も合流する。僕たちの好きな麻婆麺が気に入ってもらえてよかった。ものすごい勢いで給仕されるのでついついはやく食べてしまう。おかげで満腹中枢に追いつかれずに済んだともいえる。さくっと出て、腹ごなしに歩く。ラドリオに入ってお茶する。僕と奥さんはお酒を飲んでいると、あまりお酒を飲まない人たちが、大人ぶってる人がいる、とひやかしてくる。両親をホテルに、妹を駅まで見送って、ふたりは秋葉原のモクテルと低アルコールのドリンクを出すバーでかるく遊んで帰ることにした。ヒノキと日本酒をベースにしたジンはいい宿の風呂を舐めている気分になるし、トリュフとラ・フランスのカクテルはトリュフのしょっぱい香りがガツンときて成城石井とかに売ってるトリュフ味のポテチが食べたくて仕方がなくなった。深夜までやってるスーパーで探したがなくて、でもあまり来ないスーパーのレトルトのパスタソースや各種調味料のコーナーはまじまじみるとなかなか面白くて、ほろ酔いのふたりは見慣れないスーパーの棚をあれこれと見て回って、なかなか面白かったね、と何も買わずに帰っていった。
