高崎に行くのは初めてだった。上野から高崎線に乗るのだが奥さんはグリーン車に乗ったことがないので乗ってみたいと言って、僕も乗ったことがないのですごくいい思いつきだと楽しみだった。前日も祝祭で日記を書いて寝たのが二時過ぎだったので朝はねぼすけ。一度は八時前に目が覚めたが何度も寝直して十時くらいまで横になっていた。いつもはうっかりホームで待つ位置を間違えると隣の車両まで走る羽目になる厄介なトラップくらいにしか考えていないグリーン車は、自分たちが乗るとなるとうきうきするものだった。乗車券を買う機械の受け皿みたいなところにSuicaを置くと選んだ行き先まで登録されて、そのまま乗り込んで座席の頭上にあるパネルにタッチするだけでいいという簡便さ。こんなんでいいんだったら毎日乗りたい。テーブルがあるだけで行楽気分が高まるというもの。きのう買った月餅を食べて腹ごしらえ。奥さんは神田伯山の講談を見てくすくす肩を震わせていた。僕は『百器徒然袋』をにやにや読んでいたらあっという間に高崎だ。
ホテルに荷物を預けてさっそく群馬音楽センターへ。アントニン・レーモンドの格好いい建築。その誘致と施工にまつわる市民有志たちのエピソードを聞きかじっておいたから、かわいらしい外観から内装まで、惚れ惚れと見とれた。開始から三時間くらい経っていたけれどグッズ販売の列はまだそこそこあって、並んでいるうちに奥さんはすっかり熱中症気味で、顔が真っ赤に土気色。奥さんは小さいから地面に近いぶん一層つらいだろう。Tシャツと手ぬぐいとタオルを買う。これをあてにして明日の着替えは持ってきていないから先に並んでおいてよかった。ほとんどは開場前に売れてしまったようだから。へろへろの奥さんは部屋で休むことにして、僕は単身REBEL BOOKSへ。気持ちのいい商いの有り様や、あたらしい語学学習への意欲を掻き立てられる棚だった。やるぞの気持ちを高める気に満ちていて、ちっとも押しつけがましくない。吟味に吟味を重ねて『学校するからだ』と『語学の天才まで1億光年』をレジへ。荻原さんに挨拶をして、サイン本を作らせてもらう。『会社員の哲学』はけっこう思い切った数量を入れていただいていて、ずいぶん減っていた。ありがたいことだというか、僕の作ったものは本屋の力で届いているんだよなということを思う。ちょうどオンラインで売れたところだという『プルーストを読む生活』にもサインを書く。お散歩マップとステッカーをいただく。今朝あのあたりを散歩してたらすでにグッズ待ちの列がすごかったですよ、とのこと。二時間以上前から販売開始を大勢が待っていたということだ。ライブ終わりにも行きやすいお店をいくつか教えてもらう。なんか櫓みたいなのが建てられていましたけど、あれはなんなんですかねえ、と首を傾げもした。
BUCK-TICKのライブを見て、きょうもあっという間だった。僕は大体のライブは途中で、疲れたな、とぼんやりし始めてほかごとを考え出してしまうのだけど、わあーと目を輝かせていると終わってしまう。退屈な時間がないと人はうまく時間をとらえられない。中弛みというのは重要なのだと思う。弛緩するのはアンコールを待つ時間くらいで、ここはすこしうとうとしてしまった。ホールは楽器の鳴りはきれいだけれどすこしボーカルがぼやけるようで、聞こえ方がちがうと印象も変わる。終演後、音楽センターのコンクリート打ちっぱなしに映像が投影されていて、それを皆が見上げた。櫓はこのためだったんだな。
商店街の側道がいきなり歓楽街の顔になるのに地方都市を感じる。ルフマートでピザをふたきれ、さくっと食べる。生地がとびきり美味しくて、店内のしつらえが格好いい。洋画に出てくるダイナーみたいだ。今から行けば間に合うかも、と早足で北上し、Le pomponへ。桃とブッラータチーズ、茗荷のピクルス、フレンチフライ、オムレツ。ブッラータチーズがたいへん味よくごきげん。
宿の大浴場でゆっくり温まる。ポメラのケースにREBEL BOOKSのステッカーを貼って、見知らぬベッドの上で日記を書く。さて、あしたはどうやって遊ぼうかな。
