2023.10.20

気圧よぼよぼ。明日からの福岡が楽しみな気持ちと飛行機の不安でなにも手につかない。飛行機は乗り物としては好きだけど、たまにしか乗らないから乗るまでの手続きに一向に慣れず、未知の手続きに対して過大な不安を抱きがち。この話、もうしましたっけ。大谷能生『歌というフィクション』を終わらせにかかり、最後の宇多田ヒカルの章の半分くらいのところで奥さんがソファの隣に腰掛けて覗き込んでくるので一緒に読んでいく。奥さんの方が三行ぶんくらい速い。キングダムハーツに繋がったね、だとか、論述の途中で急に話しかけてくるのやめてほしい、などとコメントをするので差がよくわかった。奥さんにとって能生といえばオフィスマウンテンで、アフタートークでゼエゼエハアハア満身創痍の彼だった。だから余計に文体のお茶目さが気になるらしい。

郵便局に出荷して、あれこれと印刷し、三回に分けて少しだけ家を出て、用事を済ませてからは本を読もうとしたのだけれど身が入らず、きょうはもう無理そうだったので映画を観ることにして、缶ビールを開け、ポテチ開け、『アネット』。カラックスは微妙にいつも乗りきれないけれど、ずっと歌いっぱなしなので楽しく観れた。しかし退屈な絵も多くて、もうすこし短くてよかったと思う。夜を駆ける光の球あるいは帯としてのバイクは格好いいが、しばしばこのダサさは許容範囲でいいんだっけという野暮ったさがあり、そういうところで白けてしまうらしい。幕開けと終幕の行進は、そりゃみんなそういうの好きだよねという感じで、しかし驚きはそんなになくて、みんなで集合写真をとるみたいなフォーメーションをとるところはちょっと面白かった。指揮者の演奏中の独白と「ちょっと失礼」の反復はかなり楽しかった。たぶん二度三度観るとじわじわいい感じになってくるだろうなとは思うけれど、それにしても二時間半ちかくあるわけで長い。

口直しにアルモドバルがティルダ・スウィントンを撮った短編を観て、映画の虚構性を露骨に開示しながらも、だからこそ剥き出しになる演技の表層の凄みみたいなものは、二時間半なくても三〇分で撮れてしまうものである。

ダメ押しで日記を書きながら流し見れるようなやつを、と思い『FALL』を再生したらしっかり嫌で、足の裏がひゅうひゅうした。高いところ、嫌すぎる。ひとりでヒイイイと声を上げてクッションをくしゃくしゃに潰しながらなんとか耐えて、気がついたら日記を一文字も書いていなかった。ライブに出かけて零時を回ってから帰ってきた奥さんは一杯機嫌で、洗濯をします、などと宣うので止めた。アイスを買ってきてくれたみたいなので食べてから寝よう。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。