2023.10.26

大人だから二、三日もすれば平気になるかと思ったけど、全然だね。きょうは春に立ち上げたばかりの劇団の一〇代の青年たちのニュースを見ていたら、その命っぷりに泣けてしまったのだと奥さんは言う。僕もじぶんの環世界がわりと大きく壊れてしまった感じがあって、短い間にこんなにまで、と驚きもある。その修復には時間がかかりそうだし、元には戻らない。ただ壊れてしまったその形に慣れるだけだろう。家にいてもろくなことはなさそうなので、なるべく忙しくしようと決める。予定では郵便局に各書店に送る荷物を持っていくだけだったけれど、都内のぶんは持っていくことにする。とにかく歩こう。あと、なんかタナトスにはエロスを拮抗させた方がいいかもな、と文学フリマ福岡で買った『エッチな小説を読ませてもらいま賞 受賞作品アンソロジー』を読んでみたら、エッチとは、小説とは、とどちらもわからなくなり、あと電車で読むにはキラキラしすぎているから権威あるエッチな小説として蓮實重彥『伯爵夫人』を持っていくことにして学芸大学へ。抱腹絶倒のバカエロだった。この技巧と含蓄を贅沢に蕩尽するからっとした馬鹿らしさはBUCK-TICK に通じるものがあるな、などと思う。今は何をみても思うだろう。

SUNNY BOY BOOKS に会社員とベイブを納品。スタッフの病欠で代打に入っているという方が、プリンタのトラブルでたかはしさんとテレビ通話を繋いでおり、せっかくなのでご挨拶。お顔が見れて嬉しい。プリンタの型番を伺ってあれこれ仮説出し。なんやかやで解決して、よかったあ、と安心してお店を見て回る。古本を二冊買う。帰りの電車で『伯爵夫人』を読み終えて、これはだいぶ面白いし、かなり好きな小説だなと思う。しかし、エッチではない。「ちんちん」とか「まんこ」と書くのに躊躇いがなさすぎる。喘ぎ声が「ぷへー」なのがかなりいい。帰宅して奥さんにぷへーの話をすると、魂が抜ける、プシュケーってこと? と存外に知的な答えが返ってくる。そういうことだったのか。一二〇度の「ばふりばふり」であるとか、ほとんど段落をまるごと引き移すようなことさえするような反復が章を跨いで執拗に行われる。その差異と反復のリズムの愉悦。八〇歳でこれ書くのだから痛快だ。夜はもりもりカレーライス。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。