2023.12.25

すっかり年末気分で、きょうは26日だと思い込んでいた一日。そのくせ降臨をモチーフにしたスウェットを着て家を出ていた。黄ばみが目立つので本来は洗濯しないといけなかった。年始のプロレスの予習に励んでいるが、これは29日のバクチク現象についてあれこれと気を揉みたくないということからの脱線な気がしてならない。不思議と心配はしていないのだけれど、だからこそ下手な邪推で頭を埋めたくない。なにも予期しないまま武道館に向かいたい。というか、そうでなければ向かえない。

なんだか忙しかった。明日も明後日も忙しいことになってしまった。全てが嫌になってしまったので年末年始の休みを増やした。年末年始は働こうが休もうが停滞した感覚になるので好きだった。ずっと止まっていたい。布団の中で。

夕食はローストした肉とマッシュポテト、セロリとにんじんのスープでご馳走だった。マッシュポテトがあればご馳走なのだ。だってあれ、すごい手間隙をかけて滑らかにされた芋だもの。素材ではなく投入する労働の量で美味しいを作るという人為への信頼、マッシュポテトは文明の味。僕は文明が好きだ。

夕食後、奥さんが何して遊ぶ? と訊いてくれるのでわくわくしたが、アルプス一万尺だけやって、もだもだしていたら奥さんは図面を引く一人遊びに引っ込んでしまった。アルプス一万尺は結婚以来断続的に練習しているが僕は一向に振り付けを覚えられない。七年ほど付き合わされるうち、とうとう奥さんのほうが正解を見失って恐慌をきたした。体に染み付いていた他愛もない遊びとしての動作が、ものおぼえの悪い出鱈目さに撹乱されて記憶から零れ落ちていく。それは何も覚えていられない僕にとっては馴染みの恐怖だったから、こちらがわに引き込んでしまったような後ろ暗い愉悦がある。ようこそ、すべてがあいまいな世界へ。

パーティーがしたいね、と奥さんは言う。パーティーって楽しいって意味でしょ? と言うので、僕はたしかにそうだ、と応える。すると、いやいや、パーティーは楽しいって意味じゃないよと慌てて訂正してくれるのだが、僕はパーティーは楽しいという意味だと思う。楽しいをしたい。ちょっとしたやつではなく盛大なやつだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。