2023.01.10

『群像』の創作を読み終える。連載や連作はおそらく取り上げないのでざっくり。分厚いけれど創作の割合はそこまでないので読まなければいけない部分は少なめ。後に控える『新潮』なんかは半分くらいが創作だ。昨年一年分の『群像』に当選したRyota さんは律儀に全ページ読み通したというのだがこれはすごいことだなと思う。創作を量こなすのは案外軽いのだが、論考はいちいち読むときに使う筋肉を切り替える必要があるのでたいへんなのだ。集中的に長くもない小説を一定数読むという経験がまったくないので、これが本当に文芸の最前線なのだろうか、と憧れの社交会に幻滅する『失われた時を求めて』の語り手のような気持ちも湧かなくはない。ひとつでも、これは、と大はしゃぎできるものがあれば嬉しいが、そもそも僕は短編や中編では作品にチューニングしている間に終わってしまうので長いものを一気に読むのでないと読むという感じになるのさえ難儀する。吉田さんも仰ってます。

何かないかと読むものを探していて新聞や雑誌で用が足りることは滅多にない。尤も新聞の方はその目的が他のことにある以上当り前であっても雑誌はこれも新聞と同じ意味で読むのは別であるが、ただ読む楽みの為に読むのに適していないのがその形式に制限されてそれに載るものが短か過ぎるからだということにこの頃になって漸く気が付いた。こういう簡単なことが解るまでには時間が掛る。確かに雑誌に載るものが短い代りに色々と集めてあるのが或る程度の埋め合せにはなってもこれはそのうちのどれもが読むに価するものであってのことで、そうは行かないのであるから読めるものは短か過ぎて食事をする代りに一口何か食べさせられておしまいになる感じがする。これは我々が満足するまで読むのに必要な量が相当なものであることを示しているようで雑誌の一部を占めているもので堪能するならばそれは力が籠っていることが言葉数を補充する大文章である。例の珠玉の短篇というのも実際には一冊の短篇集になって始めて我々を何か読んだ感じにするので、これは堤中納言物語や梶井基次郎の「檸檬」を考えても明かである。  

このことは雑誌というものの性格に即して今日あるのとは別なものを作る必要があることを思わせるものであるが、それがこれから先のことである時に差し当り雑誌で読めるのは連載だということになる。これも実は如何にももの足りないもので、そうして区切られても読みたくなるのは次の月が待たれる程の出来栄えのものであることになり、こういうものは一層何か一口食べて後は持って行かれる感じが強い。(…)

吉田 健一『本が語ってくれること』 (平凡社ライブラリー)

これはKindleから引いた。Kindle は検索すればすぐに出てくるから便利だ。これは図書館で借りて読んでもいて、プルーストを読んでいる時期にバスの中で読んだ。だから『プルーストを読む生活』でも引用してあるはずだ。その単行本は旧仮名遣いで味わいがあった。吉田健一はおそらく旧仮名で読んだ方がわかりやすい。旧仮名のものを改めるとそれで変わってしまう読み心地というのはあって、われわれは目で形をなぞるようにするのも立派な読書だからである。それはそれとして雑誌を購読するというあり方に慣れて仕舞えばこちらも楽しみようがあるはずで、もう一年ほどジャンプを追っているがこれは楽しい。しかし読切はほとんど飛ばすことが多いのは確かで、となると雑誌とは連載を追いかける楽しみなのかもしれず、そうであれば先月号から改めて連載も追いかけるべきかもしれないがほかにも読みたいものがいくつもある。雑誌といえばKindleの読み放題には『週刊プロレス』もあり、今日発売の号は僕も行った試合が載るから楽しみだったのだが発売日に読めるようになるわけではないらしい。ではいつなのかと調べてみてもはっきりしない。どうやら随分と変則的らしい。雑誌をコツコツと読むというのはリズムが大切で、配信日が不定期ではうまく生活に組み込めない残念さがある。

『プロレススーパースター列伝』は読み放題でもいくつかバージョンがあり、それぞれ掲載順など異なっているらしいのだが【デジタルリマスター版】と銘打たれているもので読んでいる。これまでもウエスタン・ラリアートの誕生秘話や、ゾンビとも戦ったことで有名なエル・サントの直系ミル・マスカラスの半生などを学んだ。きょうはBI砲だ、これはON砲のようなものだと説明されるのだがON砲がわからない。文芸誌の息抜きにプロレスを学ぶのが楽しみになっている。漫画の方は有田の話よりもだいぶ美化されていて、当時の言説が気になる。『昭和プロレス正史』というのも読み放題にあって序文だけ読んだが、黎明期のプロレスのナラティブは明治から昭和初期までの時期に生またほんの数人の記者たちが複数のペンネームを使い分けながら形成していったとあった。いまとなっては想像もしづらい活字メディアの特権性やその従事者の希少性、その内輪ノリや揉めごとについて掘ってみるのも面白そうだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。