2024.05.15

奥さんが友人を招いて冬単の千穐楽を見届ける会。僕は残業で一幕の途中からの参加だったけれど、今作は劇場で観ることに特化した演出が冴えていたから、映像で記憶を上書きするよりも画面の外の構図を補うように眺めるほかない。繰り返し映像では見ないかなと感じる。植ちゃんが映るたび泣いてタオルをぐっしょりさせていたが。

深夜の松屋。悪名高い食券機はリモデルされたらしいが前の機種をよく知らない。なんにせよトータルの経験として最低で、空腹も相まってぜんぶ無理になりかける。学生時代によく通っていたが食後つねにお腹を壊していた。安さに魂を売るようなすり減りを感じていた。油の合わなさを思い知ってからは敬遠していた。そのことを思い出す。今となっては安くもない。鑑賞会を終えてから開いている店がなくて思わず入ったが、食べるたびに二度と食べるかと思う。僕にとって、松屋は戻りたくない過去の味だった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。