2024.10.13

夜は宮森みどり「Trace a Day」というパフォーマンスのアフタートークにお呼ばれしており、昼過ぎから出掛けていった。今の家からは上野に出るなら湯島駅まで行くのがよい。不忍池のまわりに沿うようにして、ABABの残骸をみとめ、パルコの二階のハーブスでケーキを食べる算段だった。気圧の影響か、まあ僕は宿酔で、ふたりとも具合は良くなかったのだけれど、奥さんは冷たい脂汗をかいていて心配だった。ハーブスは相変わらず行列で、いちどは諦めたけれどトイレを借りて戻ってみると案外進みは早く、待つ。僕はマロンパイ、奥さんは梨クレープ。ケーキが大きくて嬉しいけれど、味の展開には乏しいので、そうなんだよな、と思う。コーヒーが美味しくなくて、いつも紅茶にしておけばよかったと思うのだけれど、来るたびに久しぶりだから毎回忘れていてこうなる。

湯島から御徒町、そして上野を経由して入谷へと、なんだかんだで四駅ぶんを歩くことになる。ケーキのおかげか二人ともけっこう元気。SOOO dramatic! というスペースに着いたのは十七時過ぎで、展示を眺める。思ったよりも展示はスカスカで、映像は見るのがちょっとしんどいなと思う。もっとテキストやオブジェを準備してもいいんじゃないかと思いつつ、メインはパフォーマンスにあるということなのだろう。小一時間をやや持て余しつつ、時間になり、パフォーマンスはぬるっと始まる。最低限の移動と照明操作で、しかし空間はあっさりと上演めいてくるから簡便だ。ゲストの俳優、新垣亘平の演技がとてもよくて、何気ない声のトーンでニュアンスを出すのが巧い。大袈裟ではないのに、小さくもない。そのサイズ感の塩梅に唸る。思っていたよりもずいぶん面白かったので、機嫌よくアフタートークではちゃらちゃら喋った。会社員としての技能と俳優としての技能の異同。会社員としての行為の遂行と、俳優による演技の遂行との相似。そのあたりをぴゃーっと喋って、気になっていることを聞いてみる。なぜ広義の表現に従事する人らは、この資本主義下でその活動が実質的に労働であることに変わりはないにも関わらず、会社員に代表されるようなものらを同じ労働者としてではなく、別の生き物のようにして知覚する、あるいはそのように振る舞うのか。これは、奥さんが『オタク文化とフェミニズム』のあとがきに抱いた違和感と同じものだった。研究者もそうだ。文化系トークラジオLife に出るようなフリーランスもそうだろう。労働の虚無や苦しみを語る時、なぜかこのような人たちは、自分のやっていることは、そうした空無や苦役とはどこかで違うものなのだという傲慢さをのぞかせてやまない。そこへのモヤモヤが僕に『会社員の哲学』を書かせもした。その『会社員の哲学』の繋いだ縁でこの日僕はアフタートークにお呼ばれもした。宮森さんの応答は誠実なものだったとは思う。

また湯島まで歩き、だめもとで三角をのぞいたら空席あるとのことでうきうき入店。鯖のポテサラ、おばんざい、蒸しつくね、鮭の無花果南蛮、塩豚と栗のわっぱ飯。おばんざいにあったスイートトマトの南瓜ぬた添えと、柿と栗の白和えがとっても美味だった。これ家でも作れないかなあ。日本酒も二合。榮光富士の黒狐というのがとても好きだった。ようやく入れたお店で、やっぱり感じもよく、ぜんぶおいしかったので嬉しい。らららと帰宅。帰り道に録音してすぐに公開。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。