石川町まで二時間以上かかる。もともとゆかりのある土地だし、住んでいたこともあるから横浜エリアが遠いのは納得がいかない。こんなに小旅行感のあるものであっていいのか。
横浜中華街に行ったことがないRyotaさんが友人と共に食べ歩きに出かけるというのにお誘いいただいたのだった。せっかく行くなら、と奥さんからおつかいを頼まれていたので、はやめに着くように家を出た。悟空で茶葉を買い足し、隣のROUROUカフェでお茶を飲みながら文芸誌を読む。行き帰りの電車で余裕で読み終わると思っていたけれど、電車の中ではなんだかんだと別のことをしていたら開きさえしなかった。待ち合わせ時間になったのでお店に向かう。大新園というところで、わんたんが絶品という。Ryotaさんとご友人は先に席に通されていて、こんにちは、と挨拶をする。青島ビールを頼み、焼きわんたん、つけわんたん、揚げわんたん、スープわんたん、とわんたん全種類を注文する。押し豆腐と蟹炒飯もいく。わんたんはたしかに美味で、パリッとしたのからもちっとしたのまで表情豊かで調理法でこうも印象が変わるものかと驚いた。わんたんって、わんたんでしょ?と思っていたけれど、わんたんって色々ありえるんだなとわかる。あれこれとお話しし、愉快だった。
腹ごなしに歩きながら、あとは豚まんを食べたいですねと話す。道すがら、ワンコインの手相占いの店にてきとうに吸い寄せられる。積極的に呼び込むわりに待たされて、カーテンで仕切られた先客へ懇意にあれこれ語りかける占い師たちの手練手管をぼんやりと観察する。待合室で三人の手相を見比べてみるとそれぞれに様子がちがっていて面白い。Ryotaさんの線はくっきりしていて、可読性が高い、とコメントした。本屋ロカンタンの復活を喜んで、現在の所在地を地図で見てみたりした。神戸の中華街との異同についていい加減に話したり、『鉄鍋のジャン』の話がちらっと出てきたりしながらようやく番が回ってきて、前の二人組の客に扇をかざしたり、写真を撮って見せたり、とにかく癖が強そうな占い師が担当になりそうだった。椅子は二つで、うしろに丸椅子が据えてある。まずは二人に席を譲って後ろから覗き込む。わたしの専門は霊視で三千円で全て見えるがどうかと提案され、いや、まあ五百円で両手見てくれるというのできましたと伝わるとあからさまに省エネモードに切り替えていたのが面白かった。パッと見て、二人とも堅実で男性的な線だとのことで、手相にもジェンダーがあるのかよと内心つっこみつつも、地に足がついて真面目な人柄であると褒められていた。とくにRyota さんはまさに会社員の手相だということで、とにかく食うには困らないわよ、お金のことはともかく、人に食べさせてもらえる相だわね、と激励されていて、ワンコインでてきとうに褒めてもらえるのだから占いって楽しいなと思い、席を変わって僕も見てもらう。すると、あなたは先の二人と違って女性的な相ね、と言った後、左手が気質で右手が現在なんだけど、あなた、手相が薄いわねえ、いま、あなたには何のこだわりもないのかしら、ぼんやりと何も考えずに生きているんじゃないの? 感性だけで生きてるわね、責任をもったことのない手相だわ、管理職じゃないわね、現実と接地していない。アニメや映画ばかり見ているんじゃなくて? 次々に繰り出されるふんわりした悪口! お金を払って通りを歩きながら、よっぽど嫌いなタイプの手相だったんでしょうねえなどと面白がる。前に大学の後輩と来た時も、険しい顔でふたりはお付き合いしているの?と問われ、いやちがうと応えるとあからさまにほっとした顔をされたことがあった。手相界において、僕はなにか受け入れ難い何かを持っているのかもしれない。
豚まんを食べて、輸入食品店やお土産屋をひやかし、廟を見物し、平べったくした台湾唐揚げを頬張るRyotaさんを写真に撮り、歩き、最後に僕も唐揚げを食べたくなりしかし量が多いのは無理なので一口サイズのものをビールと一緒に頼んだ。店先のテーブルで食べさせてくれる。さっきの大きな唐揚げを食べやすいサイズにちぎっただけのものが供されて、しまった、と思う。懸命に食べ進めていくのだがなかなか減らない。友人に、唐揚げとビールでごきげんな状況のはずなのに、給食の居残りのような雰囲気を纏っていますね、と評される。ううむ、と唸りながら、一つ残し、あとは歩きながら食べますと宣言し、解散。駅までの道のりでなんとか飲み込む。油をとりすぎたのだろう。頭がふらふらする。
何時にここに着く電車の何号車何番扉ちかくにいるよと連絡すると、ぶじお出かけをしていた奥さんと合流できた。一緒に帰宅して、買ったばかりのプーアル茶を淹れてエーステのライブの千穐楽の映像を通しで見る。ふたりでソファに座ってペンライトを一生懸命に振りながら見た。『A3!』のメンバーカラーは同じ組の中でも緑系でかぶっていたり、とにかく同系色が多く、二十四色の切り替えは至難の業なのだが、ここにきてようやくすべてのメンバーの対応表を把握して、カチカチカチッと色を送るボタンを連打しながら鑑賞し、これはたしかにひとつの参加の感覚をもたらすな、と納得する。会場では大量の光が灯される様がきれいだなという程度の感慨だったけれど、ここにきてやっとそう思えた。案の定泣いてしまうのと、油とカフェイン影響でいよいよ頭が痛くなった。うう、と思いながらうどんを食べる。いくら食べてもまたお腹は空く。寝る前、『正反対な君と僕』を読んで大泣きして、突然の最終回告知に涙が引っ込み、読み返してまた泣いた。平ぁ。