昨晩の猫は、ソファに寝転がって日記を書く人間の右腕とソファの背もたれの間にお尻をおっことさないように器用に嵌まりこみ、そこでうとうとと微睡んでいた。器用に嵌まりこみと書いたが、ずり落ちないように気を遣っているのは人間のほうで、そうすると右腕は動かせず、左手だけで打鍵することになる。であればフリック入力のほうがやりやすいのだが、ソファの近くにiPhoneが見当たらない。それで何もできないでいた。奥さんがようやく二階に上がってきて、猫のハンモックの役目を代わってもらってやっと日記を書いた。そのあと、奥さんに目ヤニや耳垢、鼻水をきれいにしてもらったのを嫌がった猫はまた僕のお腹にのっかってきて、両の前脚でしっかり人間を押さえつつ、ゆっくりと瞼がおりてくるのを無理やり押し返すようにして薄暗さに真ん丸に大きくなった黒目をぱちくりさせ、でも明らかに眠たさを隠せておらず、顔全体に眠いと書いてある。人間たちはその様子が可笑しくて、といっても日記を書き終えた人間からは腹に手をのせている猫の眼のないほうの横顔が見えるだけで、もう一方の人間がiPhoneで撮影した縦長の画面越しにそのかわいらしい滑稽さを確認して笑うのだった。
昼間に奥さんから連絡が入り、猫の頭部、耳の後ろあたりにはげができているとのこと。見たところ赤身も膨らみもなく、痒がったり痛がったりしている様子もない。今朝送られてきた、僕の作業スペースの本の上で傍若無人に振る舞っている写真を改めて確認するとまだはげはない。きょうのどこかの時点ではげたのだろう。心配だった。病院に行くべきだろうか。調べてみると炎症などの症状がなくとも通院を勧められるようだった。咳も出たようで、とにかく不安でいっぱいだった。トライアル中なのでまだ名前を付けていない。マイクロチップの登録もこちらに紐づいてはいない。そのあたりの事務はどのようになるのだろうか。労働に手がつかず、急ぎの用事が済んだらさっさと帰ろうと思う。しかしどれだけ早く帰ったところで診療時間には間に合わない。奥さんは聡明だからやるべきことはやってくれるだろう。だから帰りたいのはいてもたってもいられないからでしかなく、実利はなかった。人間側が心労ではげそうだった。
帰宅して連絡をとっていると、ひとまずは様子見でよさそうと教えてもらい、すこしほっとする。慣れている人に大事ではないと言ってもらえると心強い。フローリングの上に敷くカーペットも届き、これまで以上にジャンプが高い。踏ん張りも効くようで、やっぱり敷物を買ってよかったと思う。遊ぶ時は元気いっぱいではある。なるべく快適な環境を整えてやりたいが、いかんせんものを言わないのでいまいち確信が持てないままあれこれと試すほかない。試しすぎても煩わしいだろうから、匙加減も難しい。穏やかに健康であっておくれ。
