2021.03.12(2-p.16)

honto で予約していた『日常的実践のポイエティーク』が届いていた。ポストに投函されるのかと思っていたが、一緒にヤマトから荷物が届いたので上まで持ってきてくれたらしい。その一緒に届いたのがチョコレートの詰め合わせで、ちょっとしたいいチョコレートだ。これは奥さんの会社の恒例の年末パーティーがなくなったのでその代わりにと支給されたカタログギフト──きっちり源泉徴収されたカタログギフト──で頼んだものだが、今日という日に届いたので、ちゃっかり結婚記念日の贈り物ということになったチョコレートだ。結婚して丸五年が経ったということらしい。ジャンもポールもエヴァンもめでたいと言ってくれているかはわからないが、チョコレートはおいしかった。

『日常的実践のポイエティーク』は先ほど『日常的実戦のポイエティーク』と打っていて横で見ている奥さんがずいぶん好戦的だなと笑っていたのだが──書いている途中で覗き込まれるの、すごい嫌いだったけどだんだん気にならなくなってきた。これも五年という歳月とはほとんどなんの関係もないことのひとつ──あながち間違ってはいない。支配層の「戦略」の網の目のただなかで、その「戦略」のシステムの意味を「密猟」し、読み替える「戦術」としての狡知。いま「好戦的」を「交戦的」と誤変換しているのを奥さんに指摘された。横から見られていると書いていくそばから誤字や誤変換を指摘してくれるから助かるがいちいち鼻で笑うのは腹立つ。しかし最近MacBook の変換の頭が非常に悪いのはアップデートのせいなのだろうか。見た目がすごく知的で格好いいのに頭は空っぽ、そういう人が昔から僕は結構好きだった。奥さんは鼻で笑っているわけではないらしい。じゃあなんなの、と訊くと、うふふってしてる、とのことだ。奥さんはうふふ、ってしてる。ここまで書いたのを見て確かに奥さんはうふふってした。楽しそうでよかったね。あ、また笑った。そろそろ、実況されてる! と呆れられてきたから、いい加減にした方がいい。

セルトーはちょうど就職してしばらく本が読めなかったのが、今は奥さんと呼ばれている当時はなんと呼んでも気恥ずかしかった可愛い人と同棲を始めてだんだんまた読めるようになった頃に読んだ。久しぶりに通読できたフランスの難しい本だったから、個人的な思い出補正で必要以上に美化しているかもしれないと危惧していたが、読み始めるとちゃんと最高で、やっぱりこの本が好き、なんならここ五年くらいの僕の本に対する性癖を決定づけたのはこの本だったことに気がつかされるようなところがあって、なんというか、ただいま! という気持ちになったし、ポッドキャストも、ポイエティークRADIO と名付けているからにはきっとこの本がいつも響いている、そのことをやや自信ありげに断言できそうだった。

Coral の『Spoon』というアルバムがいい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。