昨晩は下肢静止不能症候群っぽい感じで寝付けず、うなされた。それで寝坊。起き出して奥さんと一緒にパン食べる。ついてきて一階におりてきた猫に、障子を開けて外を見せてやる。荷造りを済ませ、スーツケースがぱんぱんに膨らむ。みかねた奥さんが圧縮袋を駆使して整理してくれる。帰り道はどうすればいいんだろう。美味しいチョコレートで一服。目論見どおり十一時に家を出る。一階の窓からルドンが見送ってくれる。奥さんによると、僕が出ていくのを見送るとそそくさと二階に登って行ったらしく、もしかするとかなり思い遣りと知性のある猫なのかもしれない。
東京駅まで出て、新幹線。さいきんはSuicaでそのままピッていけちゃうから便利ねえ。心持ちとして気軽さがぜんぜんちがう。ちょっとそこまでって感じ。車中では『刺青殺人事件』。『大量死と探偵小説』の高杉彬光論で気になり、容赦無くネタバレが展開されそうな気配があったので慌てて読みだした。読者への挑戦状がある探偵小説、ちゃんと読んだの初めてかも。解決編にさしかかったところで新大阪に到着、さすがに腹ペコでてきとうなお店で遅めの昼食。御堂筋線で梅田に着いたのが十五時ごろ。なんか多分こっち、という方へ歩いていくと、通路の天井から案内板がさがっていて、合っていた。大阪梅田は迷宮というが、なんだかんだでそらで歩ける程度に覚えてきたぞ、と頼もしいが、もうこの道を辿るのは最後なのだった。
清風堂書店に辿り着く。人文の新刊棚がごそっとなくなり、小さな島に替わっている。ひとまず自分の本の在庫状況をまず把握。漫画コーナーから教材、オカルト、サブカルチャー、雑誌、ビジネス、人文、文庫、詩歌、エッセイ、新刊・一推し棚、そしてまた漫画コーナーへ、と三周くらいぐるぐるする。それから漫画コーナーに置いてあるカゴを手に取り、まず『よつばと!』の十六巻。とりあえず返品のできない岩波から優先的に買おうとコーナーを眺め、『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』と『ロマン』を併読してロシアづいてるし、とトロツキー『わが生涯』の上下巻、先日の阿部さんとのおしゃべりでも名前が出てきたベイトソンの『精神の生態学へ』三冊揃い、いつか買うと思ってたラス・カサス『インディアスの破壊をめぐる賠償義務論』、ぜんぜん知らなかったチェンニーノ・チェンニーニ『絵画術の書』は帯分には「中世絵画技法の“百科全書”」とのことで面白そう、この七冊の岩波文庫をカゴに。それから左手奥の人文コーナーから中島義道『カントの「悪」論』。同じ壁面に森本あんり『不寛容論』を見かけて、これは図書館で借りた本で面白かったから買っておこうかと考えていたのだけれど、うろうろしている間に誰かに買われていったらしく見つからない。これは嬉しい。本屋に長居する醍醐味だとさえ思う。新刊、一推し台からは『19世紀日本における服従と反抗』という米国人類学者による、徳川と明治という二つの体制にまたがる十九世紀に起こった集団抗議についての本で、「原著出版から30年、ようやく日本語訳が完成!」とのことで面白そう。もう一冊は『立ち退かされるのは誰か?』という本で、今日この場所でこのタイトル、という感じ。あとは一冊くらいみすずもいっときたいよな、と『世界目録をつくろうとした男 奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生』。さらに、どこにでもあるような本もわざわざここで買っておきたいと、なぜだかこの数日読みたくてたまらない『Dr. スランプ』をまとめ買い。一から三巻がなかったので、四巻から最終十八巻まで。これだけあるとレジも詰まっちゃうな、とタイミングを見計らうが、けっきょく詰まってしまった。申し訳ない。買った点数分のブックカバーをつけていただく。閉店のご挨拶カードもあったようなのだけれど、どっさり本を買ってイレギュラーなオペレーションになったことで失念されてしまったようだった。ぜんぜんよい。これらの本を眺めれば思い出す。面屋さんにはお声がけしそびれた。ふらっと出てきては、さまざまな人たちと静かに言葉を交わしていらした。谷垣さんも不在。ただどっさり本を買うだけの客で、でも、この本屋にただの客として来れたことが嬉しい。谷垣さんからの仕入れの打診で初めて知った本屋だったけれど、この本屋は何も知らずにまっさらな客として使ってみたいと思っていたから。だからこそ『Dr. スランプ』までまとめ買いしたのだ。紙袋ふたつぶん、ずっしりと重い。
『クロワッサン』はなかったので、地下道の旭屋書店に寄って確保。保坂さんが『プルーストを読む生活』を取り上げてくださっていて、Kindleの読み放題で読みはしたけれど、記念で紙でもとっておきたかった。
さて、せっかくここまで来たしもうすこし寄り道しようかとも頭をよぎるけれど、スーツケースにリュック、そして本屋の紙袋ふたつでさすがに大荷物だし、預けてまで行くのも半端な時間だ。大人しく十七時の新幹線で名古屋へ向かう。東山線で実家へ。鍵はもっていたので勝手に入って、荷解き。
母が帰ってきてお茶する。『r4ンb-^、m「^』を買ってもらう。ひとしきり猫自慢。夕食まで『よつばと!』読む。麻婆茄子。食後、大阪で買ってきた貴重な新刊だよ、と『よつばと!』を手渡し、僕は十五巻を読み返す。母がくすくす笑いながら、あなたも食べ物が小さいと泣いてたねえと声をかけてくる中、僕はランドセル回でほろほろ泣く。お風呂に入る。出て、『よつばと!』十四巻、十三巻、と遡り、なぜかこの家には十二巻までしかない。十二巻の途中で父帰宅。おしゃべりして、十二巻読み、眠くなり、キャンプ場に着く前に寝る。