2025.03.23

朝は奥さんがクレープをつくってくれて、文旦のソースとクリームチーズでいただく。とびきりの美味。『かんさつマガジン01』を読み返す。奥さんが二階のカーペットの毛をとったり、掃除を始めるので、僕は買い物。スーパーでは「せき×たむ通信」を聴きながら、午後の録音楽しみだな、と話したいことを考える。

帰宅して、ポークビンダルーの仕込みに取り掛かっている奥さんの隣で『ミニマル料理』のレシピでポモドーロ。ミニマムというのは要素の数であり、安上がりということでもなく、ひとつずつの量は豪勢なのだとわかる。買ったトマトをぜんぶ使い、オリーブオイルもたっぷりだ。当然、かなりおいしい。

十五時になって、小林さん田村さんとSkype繋ぐ。二時間ポッドキャストの収録。前半、僕の張り切りがやや空転するも、後半になって痺れを切らした奥さんが怒涛のおしゃべりを炸裂させたところでいい感じにほどけて、そこからはおしゃべりとしていい時間だったはずだ。かんさつバンドの結成エピソード、職場の歳の離れた同僚と本をつくること、関係性やペットへの名付けによって見えなくなるもの、自己紹介の難しさ、ZINE と自己表現を同一視しないありかた、自己表現と取り違えられた自己規定、自明のことの個体差こそ面白い、寝そべってしまえばシリアスにならない、などなど、有意義なものの作り方——それこそポイエティーク——の周辺をめぐる雑談に華が咲き、かなり充実した内容だったはずだ。そう、そのはずなのだ。そのはずなんだよなあ。録音を終えて、停止ボタンを押すと、録音が始まった。え? でもなんかチャットの方にレコーディングデータ来てるし、大丈夫かな、と思いつつ、そこからさらに一時間おしゃべり。ああ、楽しかった、ありがとうございました、終え、確認すると、録画ボタンを押して大丈夫そうだね、と僕が言う冒頭の五秒と、収録を終えて、あれ、なんかまた録音始まった?と間抜けを晒す五秒とだけが記録されていて、肝心の二時間の内容を録画しそびれていた。愚かの極み。がっくりきて、お詫びのチャット、心優しくもリスケを快諾いただき、でも同じことは話せない、次の方が変な緊張がないぶんわいわいやれる気はするけれど、恐る恐るやってみるはじめの雰囲気というのは残せない、そもそも週末の三時間もお付き合いいただいてそれがパアになるというのは、まあ、そこについては録音は口実みたいなもので、じっさいはおしゃべりがしたいだけなのだから、という満足もなくはないのだけれど、それはそれとしてふつうに失礼。

しょげつつ、お茶とお菓子で落ち着きを手繰り寄せながら、奥さんの端末とアカウントを引っ張り出してもらってSkypeの動作検証してみると、さすがにサービス終了間近というのもあって、録画周りの挙動が結構不安定で、レコーディングデータが生成されたりされなかったりするし、そのデータがどちらかのアカウントでしか見れなかったりもするので、リスケ後の録音はZOOMなどに切り替えるべきだった。それはそれとして、録画できていなかったのは明らかに僕のボタン操作ミスであることに変わりはない。ポークビンダルーの仕込みの第二段階を終えた奥さんと、再び録音。失われたゲスト回についての反省会。けっきょくこちらも一時間半ほど録り、合計で五時間弱しゃべっている。喉がオールでカラオケした後みたいになってるし、頭もきりきり労働した日くらいくたびれている。録音の終盤、おたがい何が話したいのかわからなくなり、僕は譫言を繰り返し、奥さんがそれを追求する時間が続き、これ以上はだめだった。なげやりに録音を終えて、ポークビンダルーにありついたのが二十一時過ぎ。めちゃうまで、ごきげん。

お風呂に入り、ぬぼーとするも、しゃべりすぎで疲れているはずの体が、おしゃべりの癒し効果を求めていて、バグだった。たぶん僕たちは黙った方がいい。この数日人間の都合で遊び足りない猫が不満げに鳴くので、寝るまで一緒に遊ぶ。まだまだ遊びたそうだったけれど、人間が限界だったのでごめんよ、と猫を残し、ぐっすり眠ってしまう。もっと遊びたい……、と呼ぶ声は、諦めよくすぐに止む。それが余計に申し訳ない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。