2025.05.25

早起きしてキネマ旬報シアターへ。『Flow』観る。ぜったいに映画館で見ようと話していたのに、けっこうあっさり上演数が減り、この春は週末もぎっしりだったから、見逃していた。そもそも映画の速さについていけない。名画座のありがたみというか、自分とのリズムの合い方にほっとする。友の会のカードを更新する。もう一年になるのか。子連れもおり、小さな子は思わず声を漏らしてしまう。それは夢中で見ている証でもあって、そのくらい楽しい映画であった。カメラが水面に同期するように微妙に縦横に揺れながら、水平と垂直の運動の軌道をのびやかに追いかける。露骨すぎるほどの暗喩っぽいもので充満してもいて、巨大な建造物や鯨に、東西冷戦期以来の大きな構造を予感せずにはいられないし、ラトビアひいてはバルト三国の歴史を勉強するとまた解釈の緒がふんだんに得られそうな気がした。どの動物や装置をナチスやソ連、アメリカの喩として読むか。批評への誘惑に満ちた作品だ。それでいて、子供がはしゃぐほど素朴な楽しさもある。とてもよい。高島屋でお茶しながら感想を話し、いちど帰宅。共用の財布をなくしたかもしれなかった。

財布の捜索は思いのほか難航し、絶望しかける。あちこちひっくり返した後、あっと思い至る。猫のキャリーバッグの外ポケットに入っていた。見つかってよかった。ルドンを遊ばせながら録音をして、あっという間に家を出る時間。豊洲へ向かう。

BUCK-TICK のライブチケットはそれぞれで買っていて、僕は一次で落ちて二次先行で当てたから奥さんと番号がだいぶ離れている。各自で楽しもう、と先に入る奥さんを見送る。ライブはとてもよかった。映像の演出がぐっと減って、たぶん舞台装置もミニマムになった。おかげで照明と演奏のよさが引き立って、バンドだ、という感じが高まっている。「プシュケー」や「ガブリエルのラッパ」、「海月」など、前のライブでは演奏されなかった好きな曲が演出も含めとてもよくて嬉しかったのだけれど、アンコールで「DADA DISCO」が始まったところで思わず号泣してしまいほとんどの記憶を失った。曖昧中毒のカバーでしか立ち会えなかった演奏に、ようやく。

ららぽーとの野菜レストランで火鍋を食べる。きゅうりのジントニックが美味だった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。