宿のベッドは硬めで、セミダブルしか空いていなかったから布団も共用で縮こまっていたから背中はばきばき。案の定遅めの起床で、一階で朝食を軽く食べる。レトルトのカレーが無性に食べたい時と、舌がベタついて嫌な時があり、今朝は後者だった。日曜のホテルに、組織人スタイルの団体が和やかに集合しており、なんの目的があるのかわからず、しかしだいたいの人間の集合は謎めいている。黒っぽい格好の人や、格子柄の小物を身につけている人は、だいたい今夜も群馬音楽センターに行く。それ以外の人は謎で、そのような謎の人たちからすればこちらの方が謎だ。
十時にチェックアウトで、駅ビルでお土産を先に物色し、スーツケースにまとめてロッカーのつもりがロッカーが埋まっており、焦って駅を右往左往する。奥さんが宿に連絡を入れ、預かってもらえることに。奥さんは電話が嫌いで、いつもかけないで済ませたがっていたのに、この数年はてきぱきかけていて、それは嫌いじゃなくなったわけではなく、嫌だと思うより先にかけているからできることで、すごい格好いい。それで、荷物を預けて身軽で歩き出し、warmth でコーヒーを飲んでしゃっきりする。手違いでアイスとホットの二杯いただいてしまえたので、飲み比べを楽しむことができた。ここも、これからのお店も、ぜんぶREBEL BOOKS 作成のマップで知った。二年前もそうだった。最新版をルフマートのトイレで入手していたからきょうはこれで散歩をするのだ。スズランを冷やかして、商店街を歩き、高崎電気館や、オリオン座跡地を眺め、台湾料理來來はランチはやっていなさそう。アイリッシュ温泉もまた見つけた。ニーパも見てみたけれどいまいちお腹が空かず、どうしようかなと歩いていく。プラネタリウムもあるみたい。REBEL BOOKSは十三時からで、まだ正午を回ったところだった。とりあえず椿食堂に入り、鰤の照り焼き定食と、豚しゃぶサラダ、納豆の白和えをお願いする。提供まで時間がかかりそうだったので、お酒などを頼み飲みながらのんびり待って、ちょうどよくお腹が空いてくる。窓辺に並べられた本から高野文子の『棒がいっぽん』を取り、ものすごく格好いい構図だな、絵が動いてる、とわくわくする。これはREBEL BOOKS にあったら買っちゃうな、と話しているうち料理が来て、いただく。十四時を過ぎていて、ちょうどいい。REBEL BOOKS の棚は探究心をくすぐるいいもので、冒険に出たくなる。高野文子はもちろんあって、『棒がいっぽん』と『おともだち』を手に取る。あれこれ迷い、まあ今日は高野文子かな、と思いつつ、『自炊者になるための26週』がよすぎて読み終わりたくなくて置いておかれているので、三浦哲哉の『食べたくなる本』も買っておこうと思う。三浦の文章は、鮮やかなスロー・ルッキングの実践であるし、味覚表現がほんとうにすごい。美的経験の活写。それは、映画のような時間芸術の記述を可能にする運動を見る目の鋭敏さにも似た感覚の洗練なくしてありえない。鼻や舌も、映画を見るようにして鍛えることができるのだとわかる。で、土壇場で図書館で借りて読んでいつか買おうと思っていた『アフォーダンス』が引き抜かれる。ずっしり買ってしまった。
それからずいぶん眠くなり、歩きくたびれもしたのでどうしたものかと迷いつつ、惰性で駅の方まで歩いており、オーパで小休止。ちょうどよくマッサージチェアがあり、二人並んでほぐされる。これは助かる。たっぷり休んで、本屋ブーケへ。きのうはやっていなかったけれど外から覗いていて、絵本がメインなのかな、という印象。奥さんは、なんだかNENOiに雰囲気が似ている、と言っていて、確かに少しわかる気もする。入ってみると思いがけず文学など充実しており、うきうきする。H.A.Bの本もたくさん置いてあるし、シモダさんのZINEもあるし、ああ、こういうお店がまたできたんだなあと嬉しくなる。勝手に仲間を得たような心強さ。滝口悠生の新刊を買い、蟹の親子さんの近刊も立ち読みしてみてよさそうだったので二冊レジへ。
それでようやく高崎音楽センター。昨日は後列真ん中で、今日は上手側の前の方。なんていうのあれ、あの、迫り出したとこ、花道ってほどじゃないあれ、あそこにみんな来るからわーってなった。セットリストを知っていると、あっという間に終わってしまう。いいライブだった。「神経質な階段」で、休憩がてら椅子に座って目を閉じて聞いていたらサウナよりも整う感じがした。とても楽しい。
終演後は宿にスーツケースを取りに戻って、駅ビルの売店はすっからかんで、そのまま鈍行で三時間かけて帰っていく。途中で眠気と空腹が限界突破して、記憶がない。千葉まで戻ったころには日付も変わりそうで、でも夕食は食べたく、しかし奥さんが目星をつけていたお店の当てが外れて、しょぼしょぼ絶望しつつ、けっきょく諦めてタクシーで家の近くのコンビニでうどんやラーメンを買って帰り、もそもそ食べてぐったり眠る。明日、起きれる気がしねえ。