朝はルドンに呼ばれて起きる。けさはただ人間を確認したかっただけの日で、もうひとりそっちにいるだろ、とばかりに寝室に向かって鳴き続けているので、一階に降りてついてくるのを待った。一昨日のアイリッシュシチューを昨日カレーにしたのを朝食に食べる。レモンとチーズの酸味と甘味がぐっと味をまとめるとてもおいしいカレー。荷造りは済ませていたからもう出るだけなのだけれど、部屋の掃除などを始めてしまいバスを一本逃す。ルドンを二人がかりで撫でまわす。高崎線が運転見合わせしていたので、上野まで出て新幹線にする。新幹線の乗車券はアプリで買って、いつものピッで行けるやつ。これは便利。余裕をみておいたら三〇分くらい空いたので、上野駅を探検する。無人立ち食い蕎麦屋があったり、始発駅ならではの隣のホームに渡るための道があったり、なぜか屋根のレベルが食い違っていて剥き出しの空がのぞく箇所があったり、思いの外ひろくて充実したショッピングモールみたいな区画があったり、建て増し建て増しによってわけわからなくなっている旅館みたいでずいぶん楽しい。新幹線に乗るとあっさり高崎に着いた。地下に降りるエスカレーターの方が長かったくらいだ。
まずは宿にスーツケースを預け、群馬音楽センターに向かう。グッズ列に並び、奥さんはオンラインくじでB賞のクリアファイルを当てた。二年前も酷暑だった。それよりはマシな気もするけれど、夏日だ。スズランが更地になっていて、でももっと綺麗であたらしげなスズランが奥の通りに見えるから、潰れたわけではなさそうだった。列に並ぶ人が、お昼はスズランで食べようかな、と話していたから、潰れてはいないんだろう。あれこれ買って、バゲットハットはさっそくかぶる。腹ごなしをしようと商店街のほうへと歩いていき、ルフマートへ。二年前も来て、大好きになったお店。設えがとても格好よく、なによりピザがとてもうまい。外周のところの生地がご褒美になる。
商店街の側道がいきなり歓楽街の顔になるのに地方都市を感じる。ルフマートでピザをふたきれ、さくっと食べる。生地がとびきり美味しくて、店内のしつらえが格好いい。洋画に出てくるダイナーみたいだ。今から行けば間に合うかも、と早足で北上し、Le pomponへ。桃とブッラータチーズ、茗荷のピクルス、フレンチフライ、オムレツ。ブッラータチーズがたいへん味よくごきげん。
これは二〇二三年九月一七日の日記で、そうか、すっかり六月だったと思い込んでいた。いちど宿で一息ついて、群馬音楽センターに向かう。
ホテルに荷物を預けてさっそく群馬音楽センターへ。アントニン・レーモンドの格好いい建築。その誘致と施工にまつわる市民有志たちのエピソードを聞きかじっておいたから、かわいらしい外観から内装まで、惚れ惚れと見とれた。
これも一七日のもので、次は翌日。
BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO 二日目。きのうは後ろのほう上手側で、きょうは最後列の真ん中らへん。レーザーの演出はセンターラインが把握できる場所から見るのがいちばん格好いい。ビーッと光の線が空を切るたびに興奮して、鋸の歯のようになっている天井に躍る点を追いかけた。「Campanella 花束を君に」で天井の襞に打たれる花の黄色にはきのうも見惚れていた。どうも僕は群馬音楽センターのことが好きになってしまったみたいで、この空間がいろいろな光に照らされる様に喜んでいる。
今回も、僕はアントニン・レーモンドの建築ににこにこしており、レーザーやLED に照らされて表情を変えるホールの相貌に見惚れていた。投射される光の筋が、頭上からステージ上の特殊幕まですっと伸びて、色調を変化させながらうごうごとするのが面白い。演奏もとてもよかった。いつもあっという間だ。インスト曲だけ三時間くらい聴いていたい。できれば着席で。ユータがセンターでにこにこしたり、ヒデさんの隣で腰を振ったりしている姿を見ると、人がゼロ番に立つ覚悟を見ているようだった。
ライブ後はLe pomponへ。これも二年前と同じ。ちょうどはしご酒イベントと重なっていて、たいへんそうだった。にんじんのポタージュがとても濃厚で、一口食べて、あれ、かぼちゃだったっけ、とさえ思った。牛乳はその辺で買えるものをつかっていたし——カウンター席だから見えた——、にんじんもそのへんのものだというから、すごい。これはどうにか家で作ってみたい。圧力鍋でじっくり加熱するとにんじんが甘くなるから、そのようにしてから漉していくのかな。ババもチーズケーキもおいしかった。二軒目にぼんやり見繕っていたルケは満席で、東口の方まで地下道経由で歩いてcohonでワインとチーズ。