2025.07.10

キネマ旬報シアターに出かけて『海がきこえる』を初めて観る。実際にそこにカメラがあるかのような抑制的な構図がよい。高知に行きたくなった。出てくる登場人物の、中学生も、高校生時代も、大学生になった現在も、ぜんぶ年下で、可愛くて仕方がない。おじさんになった効能に、とにかく無条件に、誰かの傲慢さや、視野の狭さや、節目ごとの一時的な万能感に、焦ったり苛立ったりせず、ただただ愛おしいな、とにこにこ温かい気持ちになれるというのがある。これは、じっさいに自分が若いころに察知したらすぐさま、ころしてやろうか、と思ったような態度だ。

せっかくなので柏をぶらつき、古着屋をひやかし、いいな、でも高いな、と思い、ボンベイでカレーを食べてつるつると汗をかき、家に帰るとべちゃべちゃで、シャワーで洗い流す。移動中は「修造女の人生スマッシュ」のシャーク鮫くんゲスト回を聞いていて、黒人映画が見たくなり、『罪人たち』は近所ではかかっていなかった。図書室で『ドゥ・ザ・ライト・シング』を見て、すっげえ面白いな、と驚く。これは奥さんとも一緒に見よう。

雷雨で家が揺れる。いちど停電して、あれこれ止まったり時計がリセットされたりする。暗がりで、驚くのは視覚以上に聴覚だ。ずいぶん家が静かになる。復旧させていきながら、常時これだけの電化製品が動いていたのだ、とわかる。

夕食はきのうのあら汁の残りで炊き込み鯛ご飯、きゅうりとタコとわかめの三杯酢、豆鍋。この前、豆鍋を食べた時、さーっと血の気が引くように具合が悪くなったのではらはらしたけれど、今日は大丈夫だった。豆苗と豆腐は変えておらず、納豆をひきわりから普通のに変えた。ひきわり納豆が体に合わないのか、きょうは量を控えたおかげなのか、引き続き注視したい。とてもよい茉莉花茶茶を淹れた。ふくよかな花のような甘みと、まろやかな芳しさが抜けていくので贅沢な気持ちになる。アイスも食べたかったが、日記を書いていたら歯磨きの準備をされてしまったので大人しく磨く。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。