2025.07.13

昨日寝たのは二時くらいになってしまったけれど今日は早起き。バスに飛び乗る。十一時から始まる後楽園大会のためだ。青木鈴木のタイトルマッチで行きたくなり、藤田参戦でチケットを取った。電車の中で、ジェームズ・ガンのスーパーマン見たいと話すと、いつのまにか子供のころ、たぶん初めて触れたスーパーヒーローものといえば『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』で、いま調べると散々コケて酷評ばかりの駄作という扱いだと知っているが、子供にとってはけっこう楽しかった記憶があるよね、とふたりで共有しあった。いま見るとダメなんだろうが、見てみたい。

DDTはひがしんアリーナの無料席で見たきりで、後楽園は初。実況席の村田さんや小佐野さんの姿を認めるのも、いつも中継に映っているお兄さんが客席にいるのも、むしろプロレスラーたちよりも、いつも映像で見ている人たちが本当にいる!というミーハーな気持ちを掻き立てるので面白かった。レモンサワーを飲みたかったけれど、午前中からはどうだろうかと席に着いたら買いに行く暇がなかった。本編開演前のダークマッチから楽しくて、吉村の試合をちゃんと見たのは初めてだったのだけどよかった。開演前の告知タイムでは、来月末にデビューする選手の紹介があり、神奈川県横浜市の葛西陽向、と今林GMが話すのを聞きながら、ほとんど葛西純じゃん、とぼんやり思っていたら、息子だとのことだった。会場からおおーっと声が上がり、本人の挨拶がある。父を超えてみせる、とコメントしたあと、葛西コールで見送られるのは嫌だろうな。父を超えるとはまず、この葛西コールを封じることなのだろう。

オープニングの6人タッグマッチは、飯野雄貴 & 納谷幸男 & 石田有輝 vs クリス・ブルックス & 秋山準 & 佐藤大地。みんな大きくて見ているだけで楽しい。飯野の掛け声がバーニングじゃなくなって、イェーの入りが難しくなったが、今日の試合では改良されていてイェーって言えた。
第2試合の男色ディーノ vs スーパー・ササダンゴ・マシン vs 平田一喜はいつもの味のコントで、箸休めといえばここしかなかった。試合後のプレゼンテーションで会場が沸く。棚橋とディーノかあ。
第3試合は楽しみにしていた竹田誠志が出る。鋏は振り回していたけれど流血なしで、いい仕事を見せてくれる。総合格闘技に詳しくないけれど、はっとするような鮮やかな技がすっと繰り出されるのが格好いい。ビジュアルもいい。明らかにやばそうで。イルシオンは見るたびによくなる。身のこなしだけでなく、視線のコントロールがたいへん巧みで、全身で場の指揮をとる。桜庭大翔を引き立てる須見は受け身が軽やかすぎてワイヤーアクションのようだった。だからこそ、桜庭がKANONを持ち上げて叩きつける場面がよく映えていた。桜庭は舞台俳優との兼業で、だからこそよく練習したんだね、と透けて見えるのが頼もしい。悠然とした身のこなしの演出が、実に舞台表現から輸入された技巧だった。
第4試合、これもまた楽しみにしていた藤田晃生 & 正田壮史のタッグ。相手はチョップのTo-y と寝技の高鹿で、藤田の歓迎会のようだったし、藤田の動きはやっぱり惚れ惚れするキレと華がある。試合後、いつの間にかいる正田の友達ブンブンをめぐる茶番があり、へらへらとザックが出てきて、クリスとザックがふざけ合って、なんとなく因縁が生まれたような、引き続き馴れ合っている様な、不思議に弛緩したわちゃつきがある。
続く鈴木みのる vs 青木真也は僕にとっての目玉で、これがメインじゃないんかい、という気分もありつつ、今日の感じだとここだよなあという順番。鈴木みのるが出てくるだけで直前までの浮つきをピリッと締めてくる。かっぜになれー!を思わず合唱。青木の試合は、絞められるともうダメだ、となる説得力があるのだけれど、鈴木みのるはなぜかまだいける感じが出ていて、不思議だ。蛇とマングースみたいというのはこういうのを指すんだろうな。期待通り場外で、近くの通路を歩いてくれて嬉しかった。青木の背中にまあたらしい切り傷がある。パイプ椅子は危ないのだ。
セミファイナル。生で見るMJポーは大きくていいなあ。武知海青は、とにかく体のセンスがいいのだな、と思う。フォームがいちいちきれい。でも、ドロップキックは上野のほうがきれい。流れも接続も無理がなく流麗だけれど、プロレスならではのリズムは佐々木大輔が圧倒的。かといって、だから門外漢はだめなのだということではなく、別種の芸能者ならではの身体性を発揮しつつ、ジャンルへのリスペクトもきちんと明示していて、桜庭もそうだけれど、ずいぶんと気持ちがいい。観客のほうも、明らかにこのために来た人たちも、これ以外のために来た人たちも、これはどの試合についてもそうなのだけれど、とにかく前のめりに楽しもうという意志に満ちていて、武知の動きにも屈託なく、おお、すごいすごい、とおじさんたちもはしゃいでいるのがいい感じ。お互いにリスペクトを持って、かといって余所余所しい「お客さん」としては扱わず、きちんと同じ土俵で一緒に楽しむという姿勢が一貫している興行で、こういうところがDDTのよさだ。試合の熱さを、ルサンチマンで駆動しないという品のよさ。
それはメインイベントのKO-D無差別級選手権試合もそうだ。挑戦者のHARASHIMAは年齢や世代を口にせず、愚直に強さにこだわる姿勢を見せる。だからこそ、樋口和貞との素朴な力比べとして試合が成立する。とにかく、最後に勝った方が強いのだ。そのシンプルさ。社会性を帯びたドラマなどなくても、ただ二人が全力を尽くして戦っているというだけで面白い。とびきりよい試合だった。奥さんは、本気でHARASHIMAに勝ってほしかった、すごくいい試合だったから、だからこそ、勝てないだろうなとわかってしまって、でも、やっぱり勝ってほしかった、としきりに繰り返すことになる。試合後の、秋山準のエルボーも、それを食らってキョトンとした顔をする樋口も、チャーミングだった。

昼興行だけれど、お茶して帰宅するとすっかり夜。夕食は赤身のステーキ。『Mr.フリーズの逆襲』を見ながらパズルで遊ぶ。パズルに夢中になってしまい、ほとんど画面を見ていないから、映画の内容はほとんどわからなかった。日付を越えたころ、中断して眠る。 

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。