午前中はたっぷり寝る。週末に作ったティラミスで朝食。カルディで買った高級マスカルポーネを主軸に構成されたティラミスは史上抜群のおいしさで、ティラミスはもう家で作るのがいちばんおいしいものになってしまった。ブランチは稲田俊輔監修のマサラおやき。取り寄せたこちらもたいへんおいしく、ふたりして、うまい!と思わず声に出して喜ぶ。それから二日間シンクに放置された食器類を猛然と洗い、キッチンの換気扇を拭き掃除して、ふきんなどを湯洗いした。だいぶすっきり。
キネマ旬報シアターまで出かけてゆき、『オルエットの方へ』を見たかった。せっかくなので同じスクリーンで一個前にかかっているものから見ることにして、それは野村万作のドキュメンタリーだった。犬童一心と気が合ったことがなく、じっさいモノクロのドキュメンタリーパートはあまり感心しなかったのだけれど、「川上」の上演をまるまる通しで見せてくれるので満足した。映画ではなく、狂言のリッチな記録映像として、あるいは野村万作の所作や表情を間近に凝視する装置として楽しむ。
それから待望の『オルエットの方へ』。すっごくよかった。バカンス前のそわそわから、別荘までの道ゆきのわくわく、初日のくたびれと高揚、朝日や夕日のうれしさ、ふだんとはちがう一日のリズムの瑞々しさ、じんわりやってくる倦怠、醒め切った終幕と、再びの色褪せた日常という、夏休みのすべてを二時間半で味わえる。もう今年の夏をぞんぶんにやったな、という気分だ。行ってない海にももう行った気がしている。まず、別荘について、裏口から入って中から正面の扉を開け放つさいにわっと射し込む光とすぐちかくに見える海の鮮やかさ。階段と壁紙の青磁のような色味、踊り場のアーチと丸窓、赤と青と黄のシャツ、トリコロールカラーのビキニ、卵色の小屋とタオル、とにかくつねに配色が楽しく、それだけでずっと見ていたい。豪快な海風の音や、木靴のやかましさ、キャハハと絶えない笑い声など、野蛮な音響がトーンを決めている。ばさばさになった髪と、盛り盛りのマスカラ。とにかく些細なことで笑い転げ、ふざけて体をくっつけあう三人の、内側から溢れんばかりの溌剌さ。二人の男たちの身勝手さもいいし、それが彼女たちのバカンスをそこまで彩りもかき乱しもしないのがいい。休暇は勝手に盛り上がり、萎んでいく。そこにただ居合わせただけの男たち。三週間ほどのバカンスは日付によって断片化され、その日いちばん面白かったであろうことや、美しかったであろう交歓の瞬間はじつはそこまで映されない。ちょうどその中間にあるような、高揚への過程か事後、沈滞の気配かその始まりだけを描いて、ドラマチックなピークのほとんどは大胆に省略される。例外はうなぎとヨットだろうか、どちらもジョエルのシーンであり、思えば主人公であるはずのジョエルはバカンスのあいだじつはけっこう影が薄い。ともかく、妙なディティールには冗漫なようでいて、大枠で見れば実にあっさりと次の日へ次の日へと進んでいってしまうその手つきがじつに理想的に日記的でもあった。
