いつもは肩の関節をきめるように前脚に体重をかけて同衾するルドンが昨晩は胸の上に頭を預けて眠ってくれてかわいらしかったのだが明け方になるとヒトの枕に頭を上手にのせる寝相になっており枕の端っこまで追いやられた僕はほとんど壁に背中をくっつける格好でどおりで寝苦しかった。英語圏のTumblr ではかつて句読点を使わず小文字で流れるように書くことが流行ったという。
インターネットはカジュアルな書き言葉を生み出したわけではないいけれど、それまでの話し言葉でのやり取りを、リアルタイムに近い文字でのやり取りへと変えることで、より一般的なものにした。と同時に、キーボードは、何重もの下線、カラーインク、装飾的な枠線、くだらない落書き、そして書き手の気分を推測させる肉筆の微妙な変化など、それまでの表現力豊かな書き言葉のレパートリーの一部を奪い去った。しかし、わたしたちが文字で感情のニュアンスを伝えるために編み出した拡張システムは、あまりにもニュアンスが繊細で、一人ひとりに固有のものだ。もし、わたしが誰かの代わりに個人的なメッセージを代筆するとしたら、いったいどうなるだろう? たとえば、わたしが車の助手席に座っていて、運転手の携帯電話に届いたメールに今すぐ返信しなければならないとしたら、わたしはその運転手になんと入力すればいいのか、一言一句たずねるはめになるだろう。発話の終わりは、ピリオド、感嘆符、ただの改行、どれがいい? 大文字はどれくらい使う? 文字の繰り返しは? 同じように、わたしが別の人の代筆したメッセージを受け取ったら、たぶんちがいに気づくだろう、表現的なタイポグラフィは、電子的なコミュニケーションを実に人間らしいものへと変えるのだ。
グレッチェン・マカロック『インターネットは言葉をどう変えたか』千葉敏生訳(フィルムアート社)p.207-208
音声入力で日記を書くとき、どこで読点を入れるかとか、漢字のひらきかたとか、視覚的なレイアウトをどこまでちゃんとやれるのかという物足りなさがあるのだけれど、それはアルファベットでも同じなのだな。この本を読むと、句点が若年層から不機嫌や圧力の表現として解釈されるというのも共通していたりして面白い。先に引いたような書記法の変化を、グレッチェンは望ましいものだと評価してこう続ける。
(…)句読記号の打ち方の規則に完璧に従えば、ある種の権力は手にできるかもしれないけれど、愛は手に入らない。愛は、規則のリストから生まれるわけではない。わたしたちがお互いに注目し合い、相手に及ぼす影響を心から気にかけたとき。規則を習得するのではなく、自分の口調を伝えられるような方法でものを書けるようになったとき。書くという行為を、自分の知的な優越性をアピールする手段ではなく、お互いの声により深く耳を傾ける手段として見られるようになったとき。権力のためではなく、愛のためにものを書くことを覚えたとき。そんなとき、どこからともなく、新しい愛が生まれる。
同書 p.208-209
いいこというなあ。喋るように書くというのはどういうことか。《お互いの声により深く耳を傾ける手段》として書く。なるほどねえ。僕は書き言葉への幻滅というか限界の自覚から話し言葉でいこうぜ社交やろうぜという気分が今だけれど、それをまた書き言葉のほうへ還元できたらすごくいいよねとは思う。それはつまり《お互いに注目し合い、相手に及ぼす影響を心から気にかけ》ながら《自分の口調を伝えられるような方法でものを書けるようにな》ることだし、《お互いの声により深く耳を傾ける手段として見られるようにな》るということだ。《権力のためではなく、愛のためにものを書く》とは、口幅ったくてなかなか言えないけれど。
夜はRyotaさんと飲みながら最新の寄席情報などをレクチャーしてもらう。締めはカラオケ。Ryotaさんが歌うVaundy がMVが流れるタイプで、リップシンクする小松菜奈が輝馬に似ていて、そうか同じ顔の系統なのだなあと納得する。帰ってお風呂に入っているとものすごく泥酔している様子の奥さんからLINE が入っており、なんとか近くまでは後輩に送ってもらって最寄りにはついたようなのだが、千鳥足で帰宅がままならないらしい。風呂から出て迎えに行くべきか迷いつつ、なんとか帰って来れるとのことなので待つ。風呂を上がるころ帰宅したようで、玄関で靴を履いたまま身を投げ出している。靴さえ履いたままのくせにスカートだけ脱いでいて優先順位が謎だった。家のあちこちに体をぶつけながら酒の臭いを撒き散らして怪獣のようだったし、ルドンはずっと耳を後ろに倒して怪獣を警戒していた。あなたって終電で帰ってきてもちゃんと正気を保ってるからえらいのかもしんない、と急に褒めてきたり、送ってくれた後輩に焼肉を奢るのだと六回くらい繰り返したり、たしかに正気ではなさそうだった。ベッドに横たえておやすみと声をかけると恐ろしいほど静かで、気を失ったらしい。あまりに物音がしないので不安になり呼吸の有無を確かめるとアルコールのつんとしたにおいが鼻についた。
