店もまだ開いていない朝の銀座は人気がなく、動き出す前の街を歩くのは気分がいい。マロニエゲートの上階にあるカフェで待ち合わせて、道中からずっと『男と女とチェーンソー』を読んでいた。ささこくんがまず来る。先に注文する。モーニングセットを頼んだが、ささこくんは朝からラーメンを食べてきたとのことでビールを選んだ。午前から飲むビールはさぞ美味かろう。シャーク鮫くんが後から来る。どう動くかの相談のはずが、ずっと中高時代のアニメ経験についておしゃべりしていた。友達と服買いに行くの初めてだな、と話すと、ささこくんが地元の友達とRight-onに行って以来だと返してくれる。ちゃんと装うことを始めてみているというシャーク鮫くんに案内してもらうのだ。
まずはドーバーストリートマーケット。先日奥さんを交えて下見に行ったところで、そのときは秋冬のセールの日だった。きょうは春夏の立ち上がりということでずいぶんと様子が変わっており目が楽しい。初日というのもあってみんなここの服が好きなんだろうなーという人たちで賑わっているのも嬉しい。どんな文化圏であれ、目を輝かせたオタクはみんないい顔してる。一階から順番に見ていく。ジャケットを試着してみたり、いかにもな半ズボンと丈の短いジャケットを合わせてみたり、じっさいに袖を通してみるとたしかに気持ちが盛り上がる。店員さんの感じもよくて、おしゃれなお店はみんな澄ましているという、クールを冷淡と取り違えている初心者の偏見もあっさり覆されていく。未知の文化にえいやと飛び込んでいくの、かなり億劫だし不安だから、こうして切り拓いているひとに連れてってもらえるのすごくありがたいなーと思いながらあれこれ見る。だんだん服を見る目が養われてきて、金銭感覚が更新されていく。いったるぞーという気持ちで半ズボンを買う。
それからイッセイミヤケに移り、ここまでは下見の日と同じコース。しかもその日にこちらでは買い物をしてしまったから、店員さんにすごい速さでまた来てくれた、と目を丸くされる。こちらも展開替えが済んでおり、また楽しい。このまえ羽織ってみて奥さんと一緒にかなり気に入ったIM MENのジャケットをまた着てみて、ほかのものもじゃんじゃん着てみてぜんぶいい。シャーク鮫くんがシャツを買って、三人とも水をもらう。
有楽町のほうへと歩き、阪急メンズ館一階のギャルソンも見てこちらはまだ秋冬。それから六階を見てまわり、テンガのアパレルが普段着にテイストが近くて使いやすそうだった。今日の僕は気合いの入ったのを買うというテーマなので見送る。さらに丸の内まで歩いて、The Tokyo、and wonderと眺めていく。Kolorのジャケットは襟のところに芯が入ってシャンとしつつ肩の切り返しが下の方にあってかなりリラックスした雰囲気でかなりよかったけれど、これまでの服のシルエットと馴染みすぎる感じがあって、もっと気合の入ったジャケットが欲しい、と今回は見送り。なんというか、今日はなんかいつもと違ったのにするぞという気分が強いから見送ったけれど普段だったらめちゃ最高、みたいな服がどんどん見つかるので、そうかあ、こういうところにあったんだなと新鮮だ。丸の内のギャルソンも見て、ここにはさっきドーバーできらきら買い物していたひとがいて、みんなこのコースを辿るんだなと面白い。けっきょく、はじめのIM MENのジャケットがいちばんときめくということが納得できて、戻らせてもらうことに。その前に休憩をとったほうがいいとシャーク・アテンド・鮫くんが音頭を取り、シェイクシャックで昼食。すでに十五時とかで、十一時から歩き通しだった。この日の万歩計では二万歩計測されていたけれど、ハイになっており疲れを感じなかったのが座るとけっこうぐったりくる。さすがシャーク・アテンド・鮫くん。
この数年、自分としてはガツガツ獲りにいくぞみたいなのをやってみた結果、やはりあまり楽しくなく、そもそも自分の実力では得られる総量もそこまで変わらないことがわかってきて、何かを作るとき見返りを求めないようになってきた。ガツガツ渇望しないでいいようにガツガツ振る舞っておくというのはありえる。「欲しい!欲しい!」とやかましく言い募ってみることで「そこまで欲しくなかったな」と気がつけるというか。むっつり欲望を内側で燻らせてるより、オープンにしてさっさと外在化するほうが、やたら理想化された観念的なものが肥大化していくのを防げて、こんなもんか、という地味さのほうで考えられるようになる気がする。
たとえば華やかな服もそうで、いちど身銭を切ってみないと関係できないというか、回路がない感じがあったから、繋がったなーという手応えが得られたのがなによりの喜びだった。まじで最近まで本以外に気持ちよく金払うができてなかったから。服と関係するために、きちんと今シーズンのものを新品で買いたかった。いちどこれができたら、あとは中古もいける気がする。BOOKOFFから本との生活を始めていくというのももちろんあるのだが、僕はいまの生活は明らかに新刊を買うようになったからこそ始められたものだという自覚があり、服もまずは同時代を肯定したかった。イッセイミヤケに戻る前に、いくつかセカンドハンドのお店も見せてもらう。手厚い。ささこくんは自分の用事はないのに、あれも似合うなー、これもよさそう、と一緒に楽しく周ってくれていいやつだった。いいやつはいいな。
十六時半ごろまでたっぷり遊んで解散。せっかく都会に出たので週末のチョコレートも見繕う。帰りの電車でそういえば世間は平日だったなと改めて思う。休みを合わせてくれたふたりに感謝だな。店内の暖かさと、陽射しの温暖さで日中はほとんど上着を脱いでいたけれど、夜道はしっかり冷え込んだ。それでも浮ついて体が火照ったまま帰宅して、夕食をつくって二人で食べる。食後、服を見せびらかす。えへへ、とにやけ、よかったね、と言ってもらう。寝るまで「Blue Prince」。歩き通しの疲労で寝落ちするかと思ったし、実際からだはどろどろに重かったが、案外元気に遊びきった。けっこう進捗あった気がする。
