2021.04.19(2-p.53)

午前中に寅さんが終わってしまった。その勢いで原稿を書き始めるが、これが一日がかりになった。珍しく書き出しが重くて、どうしたもんかと思いつつ『おかえり 寅さん』まで観てしまう。これが思いのほか悪くなくてようやくとっかかりを得て書き出せる。夕方までかけて練り続けているうちに、もろもろ提示された条件に合っていない気がして、ひとまずお伺いを立てる意味でも送ってしまうことにする。ほぼ丸一日原稿に充てることになって、いい疲労感だった。日記もそうだし、基本的に僕は速さで書いているところがあるので、速度に頼らず一文一文を仕上げていくような書き方は今でも新鮮で面白い。だから人から頼まれる文章は楽しいし、いろいろと試してみたくなる。日記も読書も手癖のようになってしまうのに危機感を覚え始めてもう随分経つ。もっと自分で自分が何描いているのか分からなくなるような瀬戸際で書きたいし、それをなんだこれ、と戸惑いながら何度も読み返したい。そうやって謎の混沌を生み出してはなんとか意味が通りそうなものにまで成形し直すような読み方や書き方をやっていきたい。僕は春は体調が最悪なので無理をしたくないなと思ってきたけれど、むしろ負荷が足りていないのかもしれない。甘やかすというのは怠けるということとは限らない。むしろしんどいところまで追い込んでみるほうがかえって気が楽になるのかもしれない。いや、でもしんどいのは嫌だよなあ、でも実は嫌じゃないのかなあ、と自分の価値観が揺らいでいるときは最高に楽しくて、こうやって何度も自分を分解して点検して組み立て直して遊んでいたい。

『BEASTARS』を読み出す。これもいい漫画だなあ。面白いものばかり読んでいるせいで、漫画って面白いのばっかりだな、と錯覚しそうになる。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。