2026.03.11

奥さんが養生で不在の間に、ルドンに話しかけることへの躊躇いがまったくなくなってしまい、んなーんなーと鳴かれるたびに、おはよう、どうしたの、今日は寒いね、あら大きなお口ありがとう、お口くちゃいねえ、食器洗うの面倒くさいよどうしよう、などとどんどん喋ってしまう。猫おじさんへの生成変化。

午後、役所に向かう奥さんを送り出す。小一時間で電話がかかってきて、全ての書類をテーブルの上に置きっぱなしだった。いつも奥さんを見送るときには、あれ持ったか、これはどうだとしつこく確認してはいはい持ったよと呆れられていたのに、今日に限って省略してしまったのが仇となった。必要な時に限ってお節介をせずに済ませてしまうのはなぜなのか。

『良き統治』と『ジェンダー・トラブル』を行き来しながら、ガンダムを見て、三月場所を流しっぱなしにしている。『良き統治』によれば、フランス革命期、立法権の優越が尊ばれ、司法権と執行権は二次的なものとされた。非人格的な法こそが、不偏で、客観的で、利害関係とは無縁のものであるからである。しかし、時代が進むにつれ法による統治という理想は、差し迫る決断と行動の必要に押されていき、今日までに至る執行権へと優位を譲ることになる。

このような、ルールがどうあれやっちゃえばそうなっちゃうやろがい、みたいな態度に、つねづねげんなりさせられている。かといって、原理原則の四角四面な適用だけでも行き詰まる。これを「話し言葉」と「書き言葉」の緊張関係として考えているのが最近だ。

ある前提を所与のものとして「同意」や「統一」のための法を読み書きすることへの志向と、そのような前提を撹乱するための話し言葉のパフォーマンスとを、どちらかに偏ることなくつねに両方やりつづけること。いまのポイエティークRADIOのロゴを作ったあたりから、ずっと同じようなことを考えているのだと思う。こういうのは手の方が早かったりする。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。