2026.03.12

結婚記念日。十周年。わお。これはこの日の寝る前に調べたんだけどTHE ALFEEは今年で結成五十三周年らしい。そうなるとそんなに大したことない気がしてくるね、と落ち着いて眠ったのだけれどまだ日記では起きたばかり。浮かれているからしっかりおしゃれして街に繰り出すところ。久しぶりに代々木公園のほうまで出て、チーズスタンドでランチをする。喉の調子がよくないので過疎ビールという蜂蜜入りのビールを注文する。ラザニアとチーズプレートを楽しみ、あれこれと食べ較べる。はじめにラザニアが来ちゃったから強い塩気で舌が固定されてしまったかに思われたけれど、付け合わせの干し葡萄でしっかりリセットできて、熟成物のしっかりとした旨味や、真っ白でほわっとした霞みたいなやつの風味をしっかり楽しめた。とにかくできたてのブッラータを食べると全部が最高になる。

渋谷のパルコをひやかして気になるシャツの試着をして遊ぶ。GUで買い物をして、SPBSを覗きながら代々木八幡駅から下北沢に移動。BONUS TRACKの広場で月日のカフェラテを飲んだり、フヅクエの金柑のあったかいのやブラウニーで休憩して、B&Bの今日のイベントは青木さんたちらしい。偶然のニアミス。うっかり会えるかもと思ったけれどタイミング合わず。来週会うからいい。アチャールの本と『「いまどきの若者」の150年史』を買う。開店したてのADDAで早めの夕食。ご飯が炊けていないトラブルで少なめになったのだけれど、お詫びにとカレーを追加してくれて、アサリとトマト、きーま、ポークビネガーの三種が揃い踏み。結果として満腹でありがたい限り。チャイまでいただいてしまう。壊れてしまったGRを買い直しておいてよかった。きょうからまた写真を撮る。広場では奥さんのすてきな一葉が撮れた。日記とスナップショット。

本多劇場のソワレで松崎史也演出の『MURDERER』。二〇一九年初演の韓国ミュージカルの翻訳。このミュージカルは、ワイマール共和国で活躍しナチ政権樹立直後にスイスに亡命したゲオルグ・カイザーという劇作家がおり、かれがドイツ降伏の二ヶ月前、一九四五年の二月にバーゼルで上演した『メデューズ号の筏』という戯曲を翻案であり、これだけでかなりややこしいのだが、そもそもカイザーの『メデューズ号の筏』は大戦中の民間船撃沈のニュースから十九世紀のフランス王政復古期の難破事件が連想され書かれたものなのでさらにややこしい。十九世紀の難破事件はジェリコーの油彩画のモチーフになっており、この絵画の題が『メデューズ号の筏』なのであるが、百五十人近くもの人びとが即席の筏で二週間弱の漂流を余儀なくされ、生還したのはたった十五人だったというこの事件のなにがセンセーションを巻き起こしたかというと、長い漂流生活から生還した数少ない生存者たちの狂気であり、食人さえあったという過酷な生存闘争への想像力が書きたてられたことにあったらしい。

ざっくり調べたところ、カイザーの戯曲は、陸を目指す筏の上の六人の少年と六人の少女の相互扶助的な関係が、十三人目の乗組員の発覚によって不信と虐殺へとなだれ込んでいくというような筋書きのようだ。ちなみに韓国では二〇一八年にこの戯曲が上演されたようで、だから韓国ミュージカルへの翻案はこのあたりに契機がありそう。で、問題の『MURDERER』ではキャストは六人に省略化され、十二使徒になぞらえることで励ましを得ていた子供たちが十三という数字に慄くという展開は、五人のはずが六人だった、という六という数字の恐怖へと置換されている。このあたりは経済的な判断として了解できるが、本作はなんと、舞台を漂流する海上の筏から、強制収容所のおそらくガス室内へと書き換えている。子供らは外から施錠されたガス室に送り込まれたのだが、ドイツの敗色濃厚な戦況を受けてか、「大人」たちは収容所を放棄したようだ。密室の中で引き延ばされた殺戮を待つ子供たち。別の「大人」が救助を約束していちど退場する。「大人」の迎えを信じて五人は支え合って過ごすが、突如現れた異端の六人目によって混乱する。「肌が赤い」と形容されるのでおそらくジプシーなのだろう。ユダヤ系の五人と一人のジプシーとの緊張関係。あるいは、五人のうち二人は同性愛のほのめかしもあるのでかれらをユダヤ系と決めつけるには根拠が弱いかもしれない。なにはともあれ、カイザーを「戦中のドイツの劇作家」として、筏を露骨に収容所へと翻案するというのはどうなんだ? 翻訳以前に手前の翻案への疑義が大きすぎて内容が頭に入ってこないのだが、なによりぎょっとさせられたのはカーテンコール後の挙動で、上手端の「大人」を先頭に、子供たちはお互いの肩に両手をやって、電車ごっこの要領で退場するのだ! この数日、ゴダールの『(複数の)映画史』のことを考えていることもあり列車のイメージの終着点とはアウシュヴィッツでしかありえない。いや、そもそも収容所へと列車で移送されるというシーンが作品内にも明示的に存在する時点で、ゴダールなんか持ち出すまでもなく列車と収容所は直結している。そこで、にこにこと電車ごっこではけていくということのおぞましさ。これは、わざとなのか? それとも、ものすごく際立った無知ゆえの愚行なのか? 判断がつかず、こういう点については史也は信頼できかねるんだよなあ、と帰りの電車の中でずっと考え込んでしまった。お風呂に入り、ようやく奥さんに感想をしゃべる。就寝前のTHE ALFEEですべてがかすむ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。