2026.05.17

奥さんが庭に除草剤を撒いていく後ろをついてゆき、散布されたドクダミを念入りに踏みにじる。汗だくで、つづきは夕方に回す。作業後、シャワー。

奥さんと『アイアンクロー』を観る。僕は昨日も見たのだが、思いのほか大傑作で二人で見たかった。昼食を挟んで感想を録音。昨日の時点で三時間半録音している。この週末は、四時間強を一作の映画の鑑賞に費やし、奥さんとのおしゃべりの録音に六時間弱かけているから、だいたい九時間同じようなことをして過ごしているわけだ。なんじゃそら。『アイアンクロー』はマジの傑作で、決定的なシーンをあえて省略するような抑制の効いた作劇が、感情の素直な発露を抑圧された男たちの悲哀と同期していて見事だ。この映画はこれみよがしに泣かせに来たりはしない。泣かせというのはジャンプスケアみたいなもので、生理反応を引き出すのは技術的には容易だがだからこそなんということもない。予感だけが充満し、次のカットではすでに事後であるような映画だからこそ、最後の最後、ちゃんと男が泣けたこと、その涙があたりまえに受容されることに深い感動がある。しかしリリー・ジェームズ演じるパムがいい女すぎる。うちなるマイルドヤンキーが、これこそ理想の女性だと叫んだ。

二度目の葬式のシーンで母親が同じ喪服を着ることを拒絶するシーン、あれを僕は悲しみの表現なのかこんなときでも体裁を取り繕ってしまう哀しさなのか解釈に迷うと話したのだけれど、あれはそもそも先行する場面で、みな僕に死んだ兄を期待するけれど僕は兄じゃないし兄のようにはなれないと吐露していたじゃないか、彼女はそれに応答していたのだと奥さんに返され、まったくその通りで、見ていればわかるはずのことだった。自らの何も見れていなさに愕然とした。こういうことがあるから人と映画を見るのは楽しい。

再び庭作業。伸び放題の雑草はもはや木で、それの幹や枝をのこぎりで切る。空洞になった幹のところに白いふわふわの羽虫が沸いていて、調べたのだが名前を忘れてしまった。なんかセミに近い外来種らしい。あじさいの大部分が枯れていたのもこいつの仕業なのだろうか。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。