2021.11.03(2-p.166)

朝はわりと早く起きる。どうするかねえ、と話していて、お昼にヤミツキカレーのパクチーとチーズが載ったやつが食べたいという提案があったのでそうすることに。午前中に仕事を済ませ、お昼は早稲田に。電車では『怪異の表象空間』。明治期の心霊ブームと、近年の精神医学系の言説の人気とは、相似を見出せそうな気がする。実学的な合理性への違和感の表現というか。それに、電波に対する心霊界隈の積極的な誤読は、最近の雑なスピ界隈の発酵や量子力学への熱狂と重なる。僕はなんだか明治の話を読むたびにほとんど今とやってること変わらんな、という気持ちになるようだった。

ヤミツキカレーはトマトチーズのカレーと、牡蠣とほうれん草のカレーを選ぶ。記憶していたよりもボリューム満点で、二人ともすこし苦しい。奥さんはしきりに、小盛りにすれば良かった、と呻いていた。

食後のお茶は甘露。お腹いっぱいと言っていたくせに栗風味のプリンに小豆を載っけたやつもぺろり。店内には『羅小黒戦記』のグッズや漫画がたくさんあって楽しい。何煎も楽しめるお茶はいい。ゆっくりできる。それからどうしようかと決めあぐねて、とりあえず梵寿綱の建築を見に行って、一階の床屋は健在でタオルの干してあるのすら格好よく見える。それから早稲田祭を控えて一生懸命ビラ配りする人がちらほらいる構内をひやかす。いま見ると大隈講堂ってたしかにランドマークだねえ、などと感心する。なんだか外壁が綺麗になっている気がする。秋の日を浴びて眩しいくらいだった。村上春樹の建物は、隈研吾の出来損ないみたいな変な曲線がくっついていてダサかった。四角くて白い本体は格好いいのに、なんだろうあの竹みたいなやつ。予約がないと入れないみたいで、諦めてその辺のベンチでぼーっとする。流石にもうここにホームを感じないな、気がつけば上京してからここに通っていない時間の方が長いのだ。周りのお店もなんだかだいぶ様変わりしている。

どうするかね、と言いながら電車で移動していると二人ともカッカと火照ってきてぼへぼへしているうちに降りる駅で降りそびれたりした。これはもうダメだね、と諦めて帰宅。奥さんの具合がだいぶ悪そうなので布団に横たえて寝かしつけていると僕の方が眠ってしまった。

大根おろしと甘じょっぱく煮た豚こまの組み合わせ以上に完璧なものなどあるだろうか。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。