幕張までの道のりは『怪異の表象空間』を読んでいた。人文書院の始まりは心霊だったことを初めて知って面白がる。個人的な白眉はニューサイエンスの文脈での整理で、カリフォルニアというローカルにおける六〇年代ヒッピーの挫折と七〇年からのニューエイジの試行錯誤という文脈が日本に輸入される過程で微妙に変質し、日本でのオカルトブームを性格づけていく。日本の七〇年代におけるオカルトブームを基礎付けていた「科学信仰」の延長上にありながらも、科学の相対化を試行するものとしての八〇年代ニューサイエンスの「精神世界」。
また田中三彦の先の記事は、ニューサイエンスについて「歴史的には、主として外国の科学者が提示したある種の科学傾向にたいする、大衆レベルの肯定的な反応の総体とみることができる。そしてその「ある種の科学傾向」 は、異なった二つの動きから成っているようにみえる」「一つは『タオ自然学』に象徴される科学と神秘思想──それも特に老荘思想、仏教、ヒンズー教といった伝統的な東洋思想──との積極的な並置、対照、そして両者の間の相似性の主張である。もう一つは、近代科学の柱となってきた「要素還元主義」ないしは「機械論的世界観」にたいする批判と代案の提出である」とし「ニューサイエンティストたちに共通することは、彼らが、ある種の神秘的体験にもとづく「高次のリアリティー認識」を積極的に語ることである。彼らは、従来の合理的な科学手法に加えて、神秘的な体験をとおして得られる(あるいは、得られた)直観的認識を、自然にたいする洞察の道具として使おうとする」「東洋思想と現代物理学の相似性の強調、還元主義にたいする包括的理論の提唱、そしてその両極をつなぐすべてのスペクトルの根底にある神秘主義的アプローチ。今日、主に翻訳書の形で紹介されることの多い「ニューサイエンス書」はすべて、多かれ少なかれ、この三つの要素をもっている」とまとめていた。
一柳廣孝『怪異の表象空間 メディア・オカルト・サブカルチャー』(国書刊行会) p.214
こうして考えていくと松岡正剛という問題をちゃんと考えないといけない気がしてくる。工作舎の仕事というのは心霊から切り込んでいくと面白いのかもしれない。
秋晴れで、気持ちがいい。正午前に本屋lighthouse について、関口さんに挨拶。ブックフェスの一環で、きょうは軒先で一箱出店。新刊ZINE のβ版のお披露目だった。さっそく設営を開始して、のんびり店番。ぽかぽか陽気の下、『怪異の表象空間』を読み終える。日が暮れ出す頃からは『第五脳釘怪談』。ああ、気持ちがいいな、野外での店番は最高だなあと満足。お隣のカフェでパンを買ったり、もちろん本屋lighthouse で本を買ったり、ぞんぶんに楽しむ。ここで買ったんです、とご自宅から『プルーストを読む生活』を持参してくださった方もいて、嬉しくサインする。「文學界」も読んでくださっているらしい。すごいことだ。これだけでも来てよかった。
関口さんは新刊二冊とも買ってくださり、中でさっそく『会社員の哲学』を読んでくれていたようで、夕方ごろの雑談で、これは面白そうな予感がします、と言ってくださってとっても嬉しかった。僕はこの本はいまだになんの確信も持てていない。ちゃんと編集者についてもらって量も質ももっと上げていける、種のような本だと思う、と言ってもらえて、ほんとうに励まされた。編集者の皆さん、傑作の卵がここにありますので、文フリ会場でぜひツバつけるべきですよ。柿内正午の『会社員の哲学』をよろしくお願いしますね。
日が暮れると暗いし寒いので本は読めず、HAMANO COFFEE STAND さんのコーヒーで暖をとりつつ、日記書いたりツイッターしたりする。仕事終わりに駆けつけてくださった方や、『プルーストを読む生活』のデザイナーである中村さんも来てくれて、撤収後も関口さん交えて店先で楽しくおしゃべり。店内のH.A.B の什器の話から、なぜだか僕はむりやりゾンビや心霊ドキュメンタリーについて熱弁を始めていた。なんでだったんだろう。
総武線で中村さんと楽しく雑談しながら帰る。今度録音しましょうね、と約束したので楽しみ。
うん、嬉しいことばかりの一日だったな。